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Nobuyuki Takezawa

Author:Nobuyuki Takezawa
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当ブログでは、私の発行済みの電子書籍を紹介をしております。また、楽しんで頂けるようエンターテインメントブログを目指しています。ごゆっくりお楽しみ下さい。

※プレビュー画像はかなり美化しております。こんなに若くありませんしm(_ _)m でも、カラオケ好きなのでマイクを持たせました※

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【DD9】

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【DD9】 吉岡梨花 今村夏美 アラン・ギア

 ミスをした。梨花はずっと頭の中でその言葉は繰り返していた。

 ヒドゥンは思っていたより敏捷だった。ジャンプして接近し、ヒドゥンが鉤爪を振り出した時にM4A1を連射した。弾丸は全てヒドゥンの胸に命中した。勝ったと思った。

 でも次の瞬間、ヒドゥンの指が伸びたように見えた。そして左目が見えなくなった。ヒドゥンは梨花の顔面をかぎ爪で引き裂いたのだ。

 激痛に喘ぎ、梨花はその場から逃げるように歩いた。どこをどう歩いたのか記憶にない。気が付けば地下施設のエレベーターホールを出て通路を進んでいた。

 ギーン、ギーンと金属が擦れ合うような音がしている。どこから聞こえるのだろうかと思ったがそれは耳鳴りだった。

 鏡があったので覗いた。ゾンビが居る。女のゾンビだ。

 「うっ…」

 それは自分だった。真っ青な顔は左半分に深い傷があり、目は潰れてグシャグシャになっている。

 自分は生きているのか? それともゾンビになったのか?

 息をしているし、心臓も動いている。生きている? いや、ゾンビも同じだ。ではゾンビなのか?

 近くに扉がある。木製で観音開きの大きな扉だ。ここは死後の世界か?

 梨花は身体を預けるようにして扉を開けた。エントランスだ。正面に階段がある。階段の脇にはタイプライターが置いてある。その上は周り廊下だ。

 左手にドアが一つ、右手にはドアが二つある。地下施設にこんな場所があるわけがない。

 「うああああっ!」

 梨花は悲鳴を上げた。果てしなく落ちて行くような気がして、恐くて、寂しくて、どうにかなってしまいそうだ。

 その時、自分のものじゃない感覚に包まれた。空腹と渇きと共食いの感覚。これはゾンビだ。自分はゾンビになったのだ。

 階段の上から男が降りてくる。黒い背広の上から白衣を羽織った初老の、白人の男だ。男は梨花の側に立ち、口を開いた。

 「ミス・ヨシオカ、まだ役を降りる時ではない」

 と男は静かに英語で言った。梨花は理性を失いそうになるの必死で堪えながら男を見つめた。

 「ゾンビにならなくて済む方法は?」

 男が梨花に訊いた。梨花は記憶の糸を手繰り寄せ、地下八階で見たファイルを思い出した。

 「ワ、ワク、チン…?」

 「それはどこにある?」

 「く、薬、のある、ところ…」

 「そうだ。そう遠くない場所にあると思うが?」

 「い、行く…」

 梨花はよろよろと歩き出した。あそこに行けばワクチンがある。狭い階段の下にある小部屋。ワクチンを打てばどうにかなる。

 「ワク、チン…。ワクチ、ン…」

 と梨花は呟きならが左手方向のドアを開けた。



 「あんたの名前はジョンよ。いい?」

 夏美は犬の顔をした化け物、ジョンに言った。彼は首を傾げている。

 「分かってるの?」

 と夏美が強い口調で言うとジョンは尻尾を振って『バフッ』と吠えた。

 「よしよし、いい子ねー」

 夏美はジョンの頭を撫でようとしたけど手が届かないのでやめた。子供の頃に拾った子犬と同じ名前を付けたのだが妙にあってるような気がする。

 でもどうして人の言う事をこんなきくのか、夏美は不思議に思った。多分、犬の性格を利用して、人間に忠実な生物兵器を作ったのだろう。じゃあ他のは人間に忠実じゃないって事になる。あのヒドゥンつてのもそうだったし。ここの人達のする事は訳が分からない。

 夏美はジョンを連れて発電施設から出た。発電施設の中の管制室らしい部屋で地下五階のカードキーを手に入れていたけど、梨花や木場を探すのが先だ。

 ガレージの前の芝生の上で梨花が戦ったヒドゥンが死んでいた。梨花の姿はない。

 「どうしちやったんだろう…?」

 何故ヒドゥンを倒したのに自分を探しに来ないのだろうか。発電施設の方に逃げたのは分かっているはずだ。もしかしたら、まだ他に化け物が居て梨花も逃げたのだろうか。

 ここからだと宿舎に逃げ込んだ可能性が高い。夏美はジョンに『おいで』と言って宿舎に向かった。

 宿舎のドアの前はテーブルや椅子でバリケードが作られている。夏美はそれらを退けて、ドアの取っ手にかんぬきのように挟んである血だらけの尖ったモップを抜いた。

 この状態だと中から外には出られない。とすると、宿舎には誰も居ないのではないかと思ったけど取り敢えず入る事にした。

 「おわー…」

 ロビーや待合い室や通路や、もう至る所にゾンビの死体があった。手を縛られているのや頭が割られているのや胸に杭のような棒を突き立てられているのもある。ゾンビが復活しないようにしてあるのだとは分かる。とすると、やったのは木場だろうか。

 「木場さーん!」

 夏美は声を出して宿舎の奥に進んだ。ジョンは夏美につかず離れずついてくる。

 どこかの部屋に居るかもしれないけど、声を出していれば聞きつけて来てくれるだろう。と思っていたけど、突き当たりまで行っても物音一つしない。近くのドアを開けたらビリヤード台が目に入った。

 そこはどうやら遊戯室らしかった。窓ガラスが割れ、ソファが引き裂かれている。ここで戦いがあったようだが死体はない。

 「居ないねえ…」

 夏美はジョンにそう言った。ジョンは夏美が問い掛ける度に首を傾げる癖がある。でも今は部屋の隅を凝視して唇の端をひくひくと痙攣させている。何か居るのだろうかと夏美はジョンが見ている方を向いた。

 軍服のようなものを着た男が大きなテレビの横にうずくまっている。夏美はあまりに静かに佇んでいるので最初はマネキンかと思った。

 彼はゆっくりと立ち上がった。白人だ。手に変な形の刃物のような物を持っていて、太股に血が滲んだ包帯を巻き付けている。

 「ぐるるるる…」

 ジョンが唸った。たてがみが逆立ち、牙をむき出している。

 「ちょ、ちょっと!」

 夏美はジョンに大人しくするよう手で制した。自分と仲良くなったから人間は襲わないだろうと考えていたけどそれは間違っていたのだ。

 ジョンが吠え、軍服の男に飛び掛かった。男は身を翻し、ジョンを避けて壁際に移動した。

 夏美は男に逃げるように言おうとして息を呑んだ。男の顔がはっきり見えたのだ。肌はゾンビのように白く、目は白目がなくて真っ黒だ。顔には何の感情も浮かんでいない。

 男の持っている刃物から何やら不思議な光が出た。再び攻撃を仕掛けたジョンの肩口に男が振った刃物が当たって煙を吹き上げた。

 「ぎゃんっ!」

 ジョンが悲鳴を上げた。見ると、ジョンの右肩の体毛が一直線に焦げ、ピンク色の肉が露出している。

 「う、動くなっ!」

 夏美はM84FSを構え、男に言った。が、男は夏美の声が聞こえていないかのようにジョンに接近した。

 もし男が人間だったどうする? 自分は人が撃てるのか、と思った時には発砲していた。

 こいつは敵だ。服を着て、武器を使っていて、知能があるように思えるけど敵だ。

 一発、二発、三発と9ミリ弾が男に命中した。その度に男はよろけるが、ジョンに向かって進むのを止めない。

 「ぐおっ!」

 ジョンが動きの鈍った男の首を掴んだ。リンゴが潰れるような音がして男の首から血が吹き出した。

 男は持っていた刃物をジョンの腹部に突き剌していた。が、すぐに男の力は弱まり、腕をだらんと垂らした。

 男が崩れるように倒れた。ジョンは男を見下ろしゼーハーと荒い息をしている。

 「ジョン…?」

 夏美は恐る恐るジョンに近付いた。ジョンの傷は深そうだった。でも血は出ていない。よく見ると、傷自体が焦げていた。

 男はジョンに喉を潰され、えぐられている。ピクリとも動かない。

 この男は何なのだろう。これも生物兵器なのだろうか。

 でも人間をちょっと改造しただけのようにしか見えない。こんな事が許されていいのか?

 夏美はグレースケミカルに対して激しい怒りを感じていた。そして同時に今まで考えなかった事に気付いてギクッとした。

 「あんたも、人間だったのよね…?」

 夏美はジョンに訊いた。ジョンは首を傾げて『くーん』と呟くように哭いた。

 その時になって、夏美はジョンの毛むくじゃらの股間に、子供のと同じ様なおちんちんがちょこっとあるのを見つけた。

 「パンツ要るね…」

 夏美はジョンの股間から目をそらして恥ずかしそうに呟いた。



 地下八階の物置部屋でギアは米軍御用達の拳銃、ベレッタM92FSを構えた。数分前まで部下だった男が両手を前に突き出し、よろめきながら迫って来ている。ゾンビとはよく言ったものだな、とギアは思った。

 ブゥードゥー教の魔術師は呪力で死体を動かして使役させる、という話がある。その蘇った死体ををゾンビと呼称する。勿論、ただの作り話だ。ロメロという監督がゾンビの映画を作って世界的にヒットし、一般に広まった。題名はリビングなんとかだ。そして続編が作られ、他の映画会社もゾンビ映画を作るようになり、ホラー映画ブームが訪れた。

 こうして死んだ人間が蘇って人を襲う怪物、ゾンビの概念は普遍的なものとなったわけだ。カーサの連中がZウイルス感染症に罹った患者をゾンビと言い慣わしたのは映画の知識があったからだろう。理性を破壊され、痛みを感じなくなり、人食いの本能が芽生え、脅威的な再生能力を身に付けた患者はゾンビと表現するに相応しい。

 「安らかに…」

 とギアは呟き、M92FSで元部下の喉仏を撃ち抜いた。元部下は頸椎を破壊され、喉に大穴を開けて倒れた。

 ギアはそれまで行っていた作業を再開した。木場から譲り受けた9ミリ弾を煙草の箱ぐらいの大きさの金属製の装置に入れる。9ミリ弾を固定し、ハンドルのようなものを回す。すると9ミリ弾の先が自動で削れて穴が開く。そこに水銀を流し込み、こぼれないようにして装置に付いているボタンを押す。そうすると先端はハンダ付けをしたように塞がる。

 これは対人型生物兵器用に作らせた弾丸改造装置だ。9ミリ弾は相手の戦意を削ぐ為の弾丸であり殺傷力は低い。しかも日本に持ち込める武器弾薬は限られており、現地で調達しなければならない。と言っても手にはいるのは僅かだ。その僅かな弾薬を最大限に活かさなければならない。

 穴を開けて水銀を入れた9ミリ弾は相手の体内で花のように開き、水銀が組織をぐちゃぐちゃにかき回す。なんとも非人道的な弾丸であるが、ゾンビや生物兵器には効果敢面だ。

 「ボス…」

 開けっ放しにしていたドアからリデルが顔を出してギアに言った。四人居た部下のうち二人はヒドゥンとデストロソルジャーに殺され、一人はゾンビ化してしまい、ついさっき殺した。残ったのはリデル一人である。

 「時限爆弾の設置、完了しました」

 とリデル。ギアの近くに倒れているゾンビとなった同僚を見て顔をしかめた。

 「ご苦労」

 そう言ってギアは改造した9ミリ弾をマガジンに詰め、装置や水銀の入った容器を仕舞った。それと、地下五階で遭遇したデストロソルジャーを倒して手に入れたレーザーナイフを腰に差してバッテリーを担ぐ。

 「武器の回収は如何致しましょうか?」

 「脱出ルートの選定は終わっている。取りに戻る必要はない」

 「了解!」

 「その他の資料も捨て置く」

 「了解!」

 リデルはいちいち敬礼して答えた。実直で真面目で愛国心に溢れており、なおかつ自分で物事を判断しない優れた兵士だ。海軍の特殊部隊に在籍しているそうだが詳しい事は知らない。帰還しなければ訓練中に死亡した事になる。

 地下八階の生物兵器の能力測定室の先に下水処理施設がある。地下施設の汚水や下水はポンプで地上に送られる。オゾンで滅菌した下水は地上施設のものと一緒に排出される。ギアは施設のマップからこのルートで脱出出来ると踏んでいた。

 木場はどうしているだろうか。と、ギアはふと気になった。各階のエレベーターホールのロックが解除されていったのは木場が動いているからに違いない。

 ヤツは優秀だ。それに利用価値も高い。カラカルではミサイル攻撃のお陰で程良い情報の流布が可能だったが、サイレン島はそうはいかなかった。放置しておけばカーサが後片付けをしてしまうし、一般マスコミに知らせれば大挙してやってきて全てをばらしてしまう。人型生物兵器以外の研究を掴ませて残りは回収しなければならない。イスラエルの諜報組織を経由して木場に情報を提供したのは成功だった。

 だが、今回は事情が異なる。カーサは今や世界的優良製薬企業グレースケミカルとなり、生物兵器製造部門は国防総省の管理下にある。これは決して世に出してはならない事柄である。

 これらの事態を踏まえ、入念に調査して行動していたはずなのに、グレースケミカルは世界屈指の諜報機関であるCIAを出し抜き、独自にこのような施設を建設していたのにはさすがに驚いた。その後の調査で他国のバックアップを受けている事が判明しているが、上層部のショックは計り知れない。

 デストロソルジャーの実用化に成功していた事を知れば、上層部はどんな判断を下すだろうか。国防を優先するならグレースケミカルを解体した方がいいかも知れなかった。

 まだ実用化には程遠いと言われているレーザー兵器の開発までしている。それに、あの研究はー体何なんだ?

 「ボス、どうかしましたか?」

 とリデルが訊いた。ギアは考え事をしていた事に気が付いてリデルに向き直った。

 「準備は?」

 「はっ! 万全であります!」

 リデルはグレネードランチャーのアタッチメントを取り付けたM4A1をかざしてみせた。グレネード弾は五発ある。それと水銀入りの9ミリ弾とマグナム弾もある。これだけあれば大丈夫だろう。

 もう時間がなかった。ギアの役目はこの施設を破壊して証拠を全て消し、無事に帰還する事である。紀伊半島の沖合いに停泊している潜水艦は予定時刻を過ぎれば帰ってしまう。もしそうなったら帰還どころか生き残るのさえ難しい。

 ギアとリデルは部屋を出て能力測定室のドアの前に立った。ドアは通路側に向かって少し湾曲している。タイフーンが体当たりでもしたのだろう。リデルに命じて手でスライドさせて、やっと五十センチほど開いた。

 ここの研究者達はタイフーンが強化生物兵器の目玉だと思っていたらしい。残念ながら狂暴化して使い物にならなくなったようだが。

 ヒグマの化け物を戦場なりテロ現場なりに輸送する手間を考えた事があるのだろうかと思う。人型、この場合は熊型だが、生物兵器は単体での戦闘力より扱い易さとコストが重要だ。

 その意味ではデストロソルジャーは傑作である。オリジナルより筋力や肉体再生力は落ちるが知能は高く、かなり細かい作業も出来る。それに単性生殖でいくらでも繁殖するのだ。妊娠期間は約三週間、産んだ子供は六週間で兵士として使えるようになる。人間の格好をしているが、初代の実験体以降は遺伝子的に人ではない。デストロソルジャーが正式採用されれば世間は猛反発するだろうが、いずれ人が死ぬよりマシだという意見に押されて容認されるだろう。そう世論操作するのも仕事のうちだ。

 ヒドゥンの方はもっと効率よく改良されていた。だが、知能は低く制御は難しい。D夕イプのように汎用性を持たせると今度は繁殖能力が落ちてしまう。番犬か無差別テロにしか使えないような代物に政府が出資するはずもなく、ギアはいずれデストロソルジャーのみに研究が絞られるだろうと予想していた。

 これらの資料はデータ管理室のコンピューターからメモリーカードに落としてある。心理エネルギー学とやらの研究が気になるが、あれは上から『消去せよ』とだけ指示されている。

 しかし…、搬入した記録のない奇怪なアライグマが出現したり、ウイルス漏れの形跡がないのに次々と人間がゾンビ化したりするのがあの研究のせいなのか? 

 「夢が現実になるものか…」

 とギアは呟いた。

 「はい?」

 リデルが聞き返す。

 「いや、なんでもない」

 ギアはパイソンを取り出して言った。

 人間の深層意識からエネルギーを取り出すなど有り得ない。しかも物質化現象を伴う、とデータ管理室で見たファイルにはあった。まるで日本のサイバーコミックに出てくるような話だ。

 こんな仕事をしていると、たまにオカルトじみた事件に出会う。南米ペルーに墜落しUFOの機体を回収したり、未来からやってきたという少女を連行した事があった。どちらもその後は知らないし知らされない。知ろうとも思わないが。

 でも今回は異常だ。グレースケミカルが心理エネルギー学の研究実験に多額の資金を投入しているのは調査して分かっている。それに別の班が介入している形跡は全くない。つまり、作為はないのだ。とするとこの施設と同様に、世には出したくない部類のものだという事になる。

 嫌な感じだった。考えようによっては、事実だとすればだが、非常に有益な研究である。原爆以来の大発明だ。だが、自分が関わるのは嫌だと感じている。その理由がはっきりしないのがもどかしい。ゾンビ化予防のワクチンを打ったはずなのに効き目が無く、いずれ自分もゾンビになるかも知れないと、いやいやウイルスは漏れていない。じゃあやっぱりあの研究が、と思ったギアは考えるのをやめた。この任務を達成したら引退して海辺で暮らそう。釣具屋なんかいいかも知れない。週末には海岸でバーベキューをしてビールを飲もう。

 ギアとリデルは更にドアを開け、身体を横にして能力測定室に入った。鉄板で囲われた部屋の奥の天井に、赤い巨大な生物がぶら下かっている。ファイルにあったタイフーンの姿とは違う。背中から蜘蛛のような足が生えている。他の生物の遺伝子を取り込んだウイルスに感染すると、その特徴が現れる場合がある。こいつはそのせいで変質してしまったようだ。

 「構え」

 ギアはリデルに命じた。リデルはグレネード弾を装填したM4A1をタイフーンに向けた。

 「撃て」

 リデルが引き金を引いた。ズポンッ、と発射音して、グレネード弾がタイフーンに命中し、爆発した。

 「!?」

 ギアはその時信じられないものを見た。目を疑うとはこの事か。ヤツは背中の細長い足を着弾位置にサッと出し、身体に命中するのを防いだのだ。

 タイフーンの蜘蛛のような足先は粉みじんになったが、それもアッという間に再生した。ギアはリデルに再装填を命じ、攻撃した。
 が、結果は同じだった。グレネード弾はヤツの身体には到達しない。その事実を悟ったギアはパイソンを取り出した。リデルはM4A1の連射を開始した。

 弾丸をケチっている場合ではない。ありったけの鉛玉をタイフーンに撃ち込む。タイフーンは天井から落下し、咆哮した。

 「撤退!」

 ギアが叫び、きびすを返した。リデルはギアを守るべくタイフーンを牽制しつつ後退する。

 ギアはエレベータールームに走りつつ反省した。『人型生物兵器と体積の関係』というカーサの科学者が書いた論文を思い出す。つまりデカければ強いという事だ。ある一定以上の体積を持つ生物兵器は拳銃やライフルの攻撃を無効化してしまう。グレネード弾のように命中後に爆発する類の砲弾が決め手となるのだが、今はそれも効かない。もっと強力な武器が必要だ。

 タイフーンがうなり声を上げてドアに激突した。エレベータールームの前でギアとリデルは振り返った。

 ヤツがドアの隙間から頭を出している。マグナムを何発もぶち込んだのに全くの無傷だ。それに、その顔は元がクマだとは到底思えない。顔面から頭部にかけて凸凹した厚い装甲板のようなもので覆われている。目は防弾ガラスのようだ。

 「やばいな、こりゃ」

 ギアはタイフーンがドアに手を掛け、力を入れているのを見て呟いた。そして予想通り、ドアはトタン板のように折り曲げられた。

 その様子を見て、ギアは発砲しようとしたリデルを手で制した。あんなのと関わるより逃げた方がいい。ギアはリデルを促してエレベーターに乗り込み、B1Fのボタンを押した。

 「…あのヘリ、動くか?」

 ギアは地下一階の大型リフトにある戦闘ヘリコプター、アパッチについてリデルに訊いた。

 「武装は取り外されていますが、発進準備をしていたようです」

 「よし」

 エレベーターが動き出し、地下一階で止まった。通路を行くと、ゾンビ三体とヒドゥンが現れた。ゾンビはリデルがM4A1で倒した。ヒドゥンはギアが水銀入り9ミリ弾でしとめた。

 大型リフト室でギアはリデルにアパッチの整備を命じた。リデルは後方の操縦室に入り、慣れた手つきで発進準備をテキパキと進めた。程なくガスタービンエンジンが始動するヒューンという音がした。

 初めにここに来た時、リフトの昇降装置に手を加えていた。コードを直結すれば天蓋が開くはずだ。

 天蓋は、地上では芝生の広がる地面になっている。芝生の根のせいで開くかどうか不安だった。開かなければ一度地上に行って根を切断する必要がある。

 「おっ?」

 ドン、という音がして床が揺れた。リデルがギアを見て『なんですか?』と顔で訊いた。ギアは手を広げて『分からない』と答えた。

 またドンと音がした。何か巨大なものが床下から突き上げている。

 ギアは施設内の図面を思い出した。大型リフトは地下八階まで通じている。でもリフトのシャッタードアは閉まっていたはずだ。

 「ぐおおおおおっ!」

 タイフーンの咆哮が足元でした。ギアは驚いて飛び退いた。ヤツはシャッタードアを破り、リフト坑を昇って執拗に追い掛けてきたのだ。

 リフトの床は1メートル×2メートルぐらいの鉄板を並べて溶接したものだ。本来ならばもっと丈夫な造りにするべきものだが搬入資材の大きさに限度がある為にこうしたのだろう。

 「おおっと!」

 タイフーンの三度目の突き上げでギアはよろめいた。ヘリを諦めて地上に行ったとしてもゲートが開かない限りいずれ捕まってしまう。

 「急げ!」

 ギアはリデルにそう言い、リフトの昇降装置から垂れたコードを結んだ。動力が入り、天井が二つに割れようとする。ミシミシミシと音がして土が降ってきたけどそれ以上は動かない。ギアはコードを外したり付けたりして工夫してみた。こうすると徐々にではあるが開いて行く。

 「もっと早く引退しておくべきだったかな…」

 ギアは床の鉄板の間から突き出たタイフーンの醜い鼻先を見て呟いた。



続く


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