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Nobuyuki Takezawa

Author:Nobuyuki Takezawa
電子書籍のトビラへようこそ!

当ブログでは、私の発行済みの電子書籍を紹介をしております。また、楽しんで頂けるようエンターテインメントブログを目指しています。ごゆっくりお楽しみ下さい。

※プレビュー画像はかなり美化しております。こんなに若くありませんしm(_ _)m でも、カラオケ好きなのでマイクを持たせました※

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【DD8】 木場誠二 田中真治

 木場はデストロソルジャーと戦った後、宿舎の探索を行っていた。二階から上は同じ造りになっていて、研究者や作業員の個室の他に物置や空調施設等があった。

 個室には電話もパソコンもあったが、外部からの進入を防ぐ為かどこにも通じていなかった。とすると、どこかに一括して外部との連絡をとる電話かコンピューターがあるはずだ。地下四階のデータ管理室がそれっぽいけど入れなければ意味はない。

 研究者か作業員の誰かが携帯でも持ち込んでいないかと探した。が、全ての階にゾンビが居た。途中で探索を諦めようかとも考えたが、モップの先をナイフで削って槍として使ったり、物置にあったロープを投げ縄にしてゾンビを拘束したりと、色々工夫をして探索を続けた。

 携帯も、最も必要なゲートの鍵も見つけられなかったが、地下二階と三階の力-ドキーを発見した。他にも白いプラスチックのボックスに入った救急セットを見つけた。麻酔や痛み止めの経口剤や止血剤や包帯など、あくまでその場凌ぎのものだが何も無いよりはマシだ。

 これで行動範囲が広がったわけだが弾薬も残り少なくなっている。一度地下四階の保安室へ行き、夏美を連れてくるべきだ。バーと食堂には飲み物もあるし、なによりあんな所に居るより気分的に遙かにいい。

 『いや、そうじゃないな…』と宿舎の五階の廊下で木場は思った。目の前には五体のゾンビが倒れていて、これからモップを加工して作った杭を心臓に突き剌すところだった。

 ゾンビは息の根を止めても、ある一定時間が経過すれば復活する。個体によってその時間はまちまちだ。大体三十分から五十分ぐらいでゾンビ達は動き出す。早いのになると数分だ。それを阻止するには頸椎か心臓を完全に破壊しなければならない。

 こんな現象はカラカルでもサイレン島でも見た事が無い。新種のウイルスによる仕業だとしても、失った血液が元に戻るのはどうしてなのだ?

 廊下にはホースで撒いたようにとんでもない量の血が広がっている。それは復活しかけたゾンビの傷口から吹き出してきたものだ。そのまま放置すれば、やがて傷は塞がってゾンビは起き上がる。

 傷が塞がる際に白っぽい粘液も出てくる。これが蘇生を手助けしているみたいだった。これもウイルスの作用なのだろうか。

 木場はゾンビに杭を突き刺した。心臓は弾力があって固い。手はゾンビの血でぬるぬると滑り、一本刺すのに時間が掛かる。

 ふと、自分は何をやっているのだろうかと思ってしまう。宿舎の安全を確保して生存率を上げる為にはやらなければならない事だ。だけど、もしこのゾンビが本当は病気に罹っているだけの人間だとしたら俺は殺人鬼だ。死んだら一億年ぐらい地獄の釜で茹でられるんじゃないか。そんな考えが浮かんで消えない。

 血塗れの手が震えている。飛沫感染しているかも知れない。バーで酒でも飲んで気分的に楽になりたいのは自分なのだ。

 その時、三回連続で発砲音がした。M16系アサルトライフルの三連バーストのように思える。木場はバスルームで手に入れたタオルで手を拭い、スパスを構えて階段を降りた。

 その間にも発砲音が断続的にしていた。単発で数回、連射が一回あり、その後パタッと途絶えた。

 宿舎の正面ドアは受付の椅子等を使ってバリケードを作ってある。木場は手早くそれらを退けて外に出た。

 ガレージの近くに何かがある。木場は用心深く接近した。

 それはヒドゥンだった。ファイルでは見た事はあるが、実物は初めてだ。

 仰向けに倒れているヒドゥンの周囲に、十数発分のライフル弾の薬きょうが散乱していた。ヒドゥンの胸は至近距離で連射を受けたかのようにズタズタに裂けている。

 ヒドゥンには数多くの改良版がある。こいつはオリジナルに近いタイプだと思うが調べている場合ではない。

 誰がこいつを倒したのだろう。デストロソルジャーをけしかけて逃げやがったあのクソッタレのギアか? いや、ギアならばこんな戦い方はしないように思える。あいつはマグナム一発でしとめて『ふっ』などと呟くヤツだ。

 木場は一旦宿舎に戻り、ゾンビが入れないよう外からバリケードを作り直し、敷地内の探索を行う事にした。ヒドゥンを倒したのが誰であれ、協力を求めない事にはこの先生存率は下がる一方だ。

 敷地内の施設の位置は頭の中に叩き込んである。宿舎を中心に南側にゲート、東にガレージ、西はテニスコート、北側には発電施設と給水棟がある。木場はまず発電施設に向かつた。

 だが、発電施設のドアはロックが掛かっていた。隣の給水棟も同じだ。スパスでロック機構を壊せば、運が良ければドアは開くと思う。が、ヒドゥンが徘徊しているとなると弾の無駄遣いは出来ない。木場はしばらく辺りを探った後、ガレージに向かった。

 木場はガレージで、黒いワゴン車のドアガラスが割られて開いているのを見つけ、足を止めた。後部の荷物を置くスペースに敷かれたマットが剥がされている。

 誰かがここを通り、ワゴン車を調べた。これはギアが乗ってきた車だから彼ではない。とするとやはり銃器を扱える人物が動いているという事になる。

 木場はまず地下四階の保安室に向かう事にした。夏美と合流して9ミリ弾を補給するのが先だ。途中、地下一階の戦闘ヘリのある大型リフトの向かいの倉庫も覗いたが、殺し方が良かったのか、倒したゾンビは復活していなかった。

 エレベーターに乗り込むと、点灯している階層表示ボタンが増えているのに気付いた。B1FとB4Fの他に、B6FとB8Fも点灯している。何者かがカードキーを使っているようだ。

 宿舎で地下二階と三階のカードキーを手に入れているから、残るは地下五階と七階だけだが行かないに越したことはない。

 地下四階でエレベーターを降りて驚いた。倒したゾンビの位置が変わっているのだ。それにデータ管理室のドアも開いていた。

 データ管理室の中は酷いものだった。コピー用紙は散らばり、爆発したように壊れているモニターもある。

 生きているコンピューターがあるかと調べたが、電源は入っているのにどれも動かない。変だな、と思ってあちこち見たらコードやケーブルの類がズタズタに寸断されているのが分かった。

 切断面は焼け焦げている。デストロソルジャーがレーザーナイフを使ったのだろうか。でもデストロソルジャーの知能は限定されていた感じがする。破壊工作が出来るとは思えない。

 ここのコンピューターが外部と接続されていて、いじられるのを嫌ったとしての事だとしたら、やったのはギアしかいない。現時点で日本の警察や自衛隊に来られたらグレースケミカルは壊滅し、合衆国政府も責任の追求は逃れられず、大統領は辞任に追い込まれる。そうなって一番困るのは、事態の収拾の為に送り込まれた責任者のギアだ。

 木場はデータ管理室を出た。夏美の居る保安室に通じる通路のドアを開ける。

 案の定、保安室の前の通路にゾンビが居た。この時になって木場は後悔した。保安室のドアが開いていたのである。

 ゾンビは倒しても復活するし、ドアも開ける。内側からロックしておけばいいのにあいつは何をやってんだ子供じゃねえんだからよ、と木場は怒りつつクーガーを構えた。

 ゾンビの頸椎と心臓に狙いを付けて確実にしとめた。残りの9ミリ弾はこれで15発、散弾はたったの三発だ。

 木場は倒した四体のゾンビを見下ろして『あれ?』と思った。確かこの区画に居たゾンビは三体だったはずだ。

 保安室の中には誰も居ない。夏美の護身用にと置いてきたM84FSと電撃棒は見当たらない。とすると、夏美はこの区画から脱出したのだ。その時にもう一体のゾンビが入り込んだのだろう。

 そう思って木場はゾンビを調べた。喉元が焦げているのが居る。電撃棒を使っだのは確かだ。

 でも、夏美は何処へ行ったのだろうか。屈強な兵士でさえ生き延びるのが難しいのにあんな脳天気で非力な小娘が長時間うろうろしていられるとは思えない。急いで探さなければ。

 木場はエレベータールームに向かおうとしたが、一体のゾンビの異様さに気付いて足を止めた。

 そのゾンビは身体中に土が付着していた。服装は警備員ぽいが、よく見ると違った。アメリカの警察官の制服のようだ。胸に銀色の星形のバッジをしている。

 そのバッジはアルミで作ったみたいに薄っぺらかった。文字のような線が浮き出てるが判別は不能だ。他に身分を示すようなものはなかった。

 皮膚表面は腐敗して崩れ掛かっている。これは他のゾンビには見られない症状だ。

 ゾンビの鼻の穴からは白い虫が出てきた。木場は保安室からメモ用紙を持ってきて、虫を挟んだ。

 姐虫のようだが二回りぐらい大きい。メモ用紙を束ねて胴体に押し付けて切断してみた。

 中からどろっとしたピンク色の粘液が出てきた。虫は半分になっても動きを止めない。そのまま一分ほど見ていたら、ピンクの液体が固まり、虫と同じような形になって動き始めた。

 これもウイルスの作用なのだろうか。そうだとしても、ゾンビの身体に付いている土はどう説明すればいい? ペラペラの銀バッジは?

 ゾンビの解剖を考え、ナイフを取り出したがやめた。その代わりにメモ用紙で封筒をこしらえ、切断した虫とゾンビの皮膚組織を入れた。科学的興味は尽きないがそれは後回しでいい。

 木場は再びエレベーターに乗り、地下二階で降りた。前に来た時に倒したギアの部下らしいゾンビは復活していなかったが、念のためにゾンビのズボンのベルトを抜き取って後ろ手にして縛っておいた。

 カードキーを使い、エレベーターホールを出た。地下四階と似たような造りの通路を進む。この階は第一保安室と用途不明の部屋が四つあるはずだった。

 ゾンビやヒドゥンが居たらすぐ逃げよう、と思いつつT字になった通路の角から様子を窺った。

 壁に浅い穴が開いていた。穴の周囲は何かが爆発したような形跡が残っている。通路の左右にはバラバラになった死体が幾つもあった。

 死体は全てゾンビだった。研究者や作業員の他に軍服姿のもある。誰かがかなり破壊力のある武器を使ったようだ。

 近くのカードキー式のドアはロックされていなかった。部屋の中はロッカーと棚があるだけでゾンビは居なかった。

 「おう!」

 木場は棚を見て思わず歓喜の声を出した。9ミリ弾とショットガンの弾薬ケースが大量に置かれていたのだ。これで一安心だ、ああ助かったと喜んだが、殆どが空だった。

 それでも9ミリ弾はニケース分三十発、ショットガン用の散弾は十二発見つかった。他に俗に一発玉と呼ばれるのも十発あった。これは散弾の代わりに火縄銃で使うような球形の鉛の弾が出る。主にトラとかクマとかの猛獣を狩る時に使う。散弾はストッピングパワー、つまり標的を押し留める力が強くて広範囲に攻撃が可能だが、離れれば殺傷力は極端に落ちる。一発玉はマグナム弾以上の殺傷力があり、多分ヒドゥンでも一発で倒せるだろう。当たれば、だが。

 ロッカーには銃器を立てておくようなラックがあった。端のロッカーにグレネード弾が四発あった。そのうちの三発は青色の塗装が施されている作裂弾だ。これは対象に命中した時に爆発する強力な砲弾だ。通路の壁の穴とパラパラ死体はグレネード弾によるものだろう。

 残る一発は緑色に塗装されていた。それには小さな英字で『Biological weapons for gas canisters』と記されていた。生物兵器に効果があるガスが詰まっているという意味だろうか。

 グレネード弾はあったが、弾を撃ち出すランチャーはなかった。それにしても、よくこれだけ武器弾薬を揃えたものだ。
 バイオハザードの発生を予期しての装備だろうが、こんな武器を用意するよりバイオハザードを発生させないように努めるべきだ。でもそのお陰で生き延びられているが。

 …そうだろうか。グレースケミカルの連中がそこまで間抜けだとも思えない。これらの武器に別の意味があるとしたら…?

 例えばデストロソルジャーの訓練用とかだ。他にもある、と考えたところで木場はギョッとした。

 一番の可能性は、人型生物兵器への対処と処理用だ。オリジナルのデストロはグレネード弾を喰らっても怯みもしなかったらしい。デストロソルジャーなどという改良版が造られているって事は、他にもそんなのが居て不思議はないという事だ。

 木場は『うーむ…』と唸り、クーガーとスパスに弾を込め、残りの弾薬をバッグに入れて部屋を出た。

 グレネード弾は茶筒のような物があれば発射可能だ。厚手の紙を筒状にしてもいい。キリか千枚通しでグレネード弾の底を叩き押せばそれで発射する。これさえ使えれば大抵の化け物は倒せるはずだ。命中精度はかなり落ちるが。

 「くそっ…」

 木場は吐き捨てるように呟いた。『大抵の化け物』などと思ってはいけない。想像しては駄目だ、と木場は焦りを覚えている自分に命じた。銃器で殺せない生き物がどこかに居て自分を待っている、なんて思うと恐怖を感じずにはいられなかった。

 恐怖は思考力や反射神経を鈍らせる。人間は事実に対してはあまり恐怖を感じないが、想像や空想は恐怖を増大させてしまう。『こうなったらどうしよう』が最もやばい。

 こんな時は忙しいフリをして、目の前の物事に集中するのが良い。木場は通路を進み、この階の部屋を片っ端から調べた。

 雑多な日常品が置かれている倉庫らしき部屋にはゾンビが二体居た。自らの恐怖の芽を
踏み潰すため木場はゾンビの背後から蹴りを入れ、よろけたゾンビの喉にスパスの銃口を押し付けて撃った。血と肉と骨の欠片が飛び散り、二体共に首が取れそうになって倒れた。気分は悪いが安心感は少し増えたような気がする。

 この部屋には衣料品や洗剤などがあったが、特に役に立ちそうな物はなかった。次は地
下施設用の食堂を調べた。

 普段は宿舎の食堂を使っているみたいで、外部からの訪問者があった時とか手放せない研究をしている時にここを使っているようだ。広さはあるが簡素で、テーブルと椅子が並べられているだけだ。テーブルの上は使いかけの食器類で散らかっていた。

 食堂には通路に続くのとは別に二つのドアがあった。一つは小型の保冷室の入り口だった。中を覗くと冷気がドッと出てきた。

 食料品の箱の他に、ゾンビも居た。ゾンビはうつ伏せになってカチンコチンに凍っていた。倒したゾンビをここに入れておくと復活しなくていいな、と木場は思った。

 残るドアは鍵が掛かっていた。それはごく普通のドアで、木場は少し思案してからスパスでロック機構の部分を撃った。この一発で開かなければ諦めようと思ったが、ドアは開いた。

 そこは調理室だった。電磁調理器や電子レンジやポットなどの他に食器を入れる水屋もある。

 木場はスパスからクーガーに持ち替えた。水屋に隠れるようにして何かが潜んでいる。もうあまり散弾を使うべきではない。ゾンビやヒドゥン以上の化け物の為に残しておくべきだ。

 「ひいい!」

 そいつが悲鳴を上げて転がり出てきた。木場はクーガーでそいつの額を撃ち抜こうとしたが思いとどまった。
 「人間か?」

 木場はそいつに訊いた。そいつは怯えた顔をして激しく頷いた。

 「に、人間です人間ですゾンビじゃありません撃たないで撃たないで!」

 警備員の格好をしたそいつは日本語で言った。歳は三十ぐらいだろうか。銀縁の眼鏡を掛けていて前歯がちょっと出ている。なんだかアメリカ人が日本人を蔑視する時に描く漫画のようなヤツだな、と木場は思った。

 「撃たないから落ち着け」

 木場はクーガーを構えたまま言った。

 「あの、助けに来てくれたんですか?」

 そいつが立ち上かって訊いた。

 「いや、いろいろと事情があってな…」

 「はあ…」

 「君は警備員か?」

 「ええ、そうです」

 「どうしてここに居る?」

 「食べ物があるからここで助けを待っていたんです」

 「ほう…」

 「あのう、それ、下ろしてくれませんか?」

 そいつは木場のクーガーを指差して言った。木場はそいつが武器を持っていないのを見定めてからクーガーを収めた。

 「木場誠二だ」

 「は? ああ、名前ですか…。僕は田中真治と言います」

 「昨日、ここの連中に捕まって監禁された。いくら待っても誰も来ないからドアをぶち破って外に出たらゾンビだらけだった」

 「なんで捕まったんですか?」

 「さあ? ジャーナリストが嫌いなんだろ」

 「え? あっ! 木場さんって、あの木場さんですか?!」

 「どの木場さんだ?」

 「『バイオハザードの恐怖』つて本、買いましたよー。…何か、本に載ってた顔が違うような…?」

 「昔の写真だからな」

 「木場さんて、昔バーリトゥードの大会に出てたでしょ?」

 「えっ?!」

 「アメリカのテキサスで、十年ぐらい前、キムラ・マサヒコって選手が一回だけ出たんですけど、あれって木場さんでしょ?」

 木場は驚いた。まだ駆け出しのジャーナリストだった頃、ファイトマネー欲しさにバーリトウード系のリングに上がった事があった。腕っ節には自信があったが、その当時は格闘技は全くの素人だった。相手はブラジリアン柔術の猛者で一分少々で完敗している。でも、放送されたわけでもないマイナーなド田舎の大会をなんで知っているのか?

 「アメリカの友達が会場で撮ったビデオを持ってるんですよ。それで本に載ってた木場さんの写真を見てピンときたんですよ。今ネットで噂になってますよー。ホントに凄い試合ですよね、パンチで相手の前歯折るし」

 と田中は目を輝かせて言った。なんだかものすごく場違いな会話をしているような気がする。

 「田中君、そういう話はここから出てからしよう」

 「え、あ、はい」

 「ここで、何が起こっている?」

 「あのー、僕にもよく分からないんですが…」

 「順を追って体験した事を話してくれればいい」

 「分かりました。ここの勤務になったのは半年ぐらい前で、多少英語が喋れるからって事で選ばれて派遣されたんですけど、主にゲートと受付に居ました。アメリカ人の警備員も居ますけど、たまに日本人の役所の人が来ますので、そんな時は通訳をやったりしてました」

 「ここが変だって事に気付かなかったか?」

 「うーん…。出入り出来る場所が限られていたし、勤務時間が午前十時から午後五時までですから…。あ、でも、妙にトラックが頻繁に往来するとは思ってました」

 「特に何かを口止めされているとかは無かった?」

 「ありませんでしたね。仕事は楽で、見回りとかしなくていいし、それでいて手当が多いんですよ。あの、ここはカーサと関係あるんですか? あの本に書いてあった通りの事が?」

 「ゾンビを見たのは?」

 「えーっと四日前、勤務時間が終わって帰ろうとしたら、ガレージの辺りで顔面が真っ白になった人に襲われたんです。それで驚いて逃げて、給水棟に逃げ込んだんです。その後、バンバンって銃の音がして、窓から見たらその人が殺されて…」

 「ふむ…。それから?」

 「恐くなって、しばらくそこに居たんですけど、陽が暮れてから出ました。そしたら先輩がロビーで撃たれて死んでるし。…電話が外に通じないんですよ。逃げようにもゲートは開かないし」

 「それはロックが解除出来ないって事か?」

 「はい。鍵は持ってるんですけど」

 田中はズボンのポケットから鍵束を取り出して木場に見せた。

 「参ったな…。じゃあ、高圧電流の電源を落とすか、破壊でもしないと無理か」

 「僕もそう思って発電施設に行ったんですけど操作が分からないし化け物も居るしで無理でした」

 「化け物?」

 「人間みたいな虫みたいな…。木場さんの本に『人型生物兵器の可能性』つて章にあったキメラってヤツと似てましたよ。それでここでバイオハザードが起こったんじゃないかと…」

 木場は渋い顔をして黙った。田中がどうしたのか訊こうとした時、木場が口を開いた。

 「グレースケミカルはカーサだ」

 「マジですか?!」

 「ああ」

 木場は手短にその辺りの事情を説明した。田中は唖然とした顔で木場の説明に聞き入った。

 「うー。…でもなんか信じられないですねえ…」

 「生物兵器の開発はそれだけ利潤があるって事だと思うが?」

 「リスクが高すぎますよ。しかも日本でこんな研究所を作るなんて…」

 「同感だが、議論は止めておこう。で、その後は?」

 「また給水棟に戻って、まる三日間ジッと隠れていたんですけど、喉が渇いてお腹が減って、思い切って外に出ました。それで宿舎の待合い室でこの階のエレベーター用のカードキーを拾ったんです」

 「よくゾンビにやられなかったな」

 「襲われましたけど、逃げましたよー。それでここに入ったんですけどゾンビが居たので椅子で追いやって冷凍庫に閉じ込めたんです」

 「ほう。なかなか勇気があるね」

 「死に物狂いでした。それからなんか凄い音がして、人の悲鳴も聞こえるし、もういつ殺されるか分からないし、あっ!」

 「どうした?」

 「ゾンビはウイルスに感染してなるんですよね」

 「ああ」

 「じゃあ僕もゾンビになるんですか?」

 「可能性はある」

 「どうしたらいいんですか?」

 「…俺もゾンビになるかも知れない」

 「え…?」

 「ま、その時はこいつで頭を吹き飛ばしてくれ」

 木場は田中にスパスを見せて言った。暗に『お前がゾンビになったらこれで処理する』と言ってるわけだ。

 田中はスパスを凝視して険しい表情を浮かべている。最初は腰抜けかと思ったがそうでもないようだ。結構理知的で、行動力もある。何より運があるのはいい。

 「で、これからどうするかだが…」

 木場は田中に現状を説明した。ゾンビの他にデストロソルジヤーやヒドゥンが彷徨いていてとても危険だ。脱出する為にゲートの鍵を探していたが、それも意味がなくなった。田中はもう一度発電施設へ行くのはどうかと言った。木場はその意見を却下した。

 「どうしてです?」

 「発電施設は地下にもある」

 「あ…。別系統で電気が送られているって事ですか?」

 「電話が通じない所をみると、電力や通信を一手に制御している場所があるかもな…」

 「じゃあそこを探しましょう」

 「…ところで、銃は扱えるか?」

 「エアガンだったら持ってますけど」

 木場は田中にクーガーを持たせた。

 「重いですね…」

 「一緒にに行動する限り君は使わなくていい。でも、万が一って時は自分で身を守らなくてはならない。いいな?」

 「おー!」

 「な、なんだ?」

 「やっぱり思ってた通りですよー」

 「なにが?」

 「カッコいいですよー。元バーリトゥーダーでカーサの悪行を暴いた腕利きの世界的ジャーナリストー。まるで映画俳優みたいでしたよ、さっきのセリフ。『万が一つて時は自分で身を守らなくてはならない。いいな?』って、普通言えませんよー」

 「君は俺を馬鹿にしているのか?」

 「と、とんでもない! 尊敬してるんですよ!」

 木場はつくづくパートナーには恵まれないなあ、と思った。夏美もそうだが現実離れしている奴等が多すぎる。

 田中はクーガーの取り扱い方をすぐに覚えた。年に数回友人達と山の中でエアガンで遊んでいるらしく、構え方もサマになっている。問題は実際にゾンビやヒドゥンが撃てるかどうかだ。

 「田中君、これから一緒に行動するわけだが、最終的な決定は俺がするし、その決定に従うと約束してくれるか? もしそれが嫌なら別行動を取るが」

 「は、はい。約束します、って言うかお願いします!」

 田中はペコリと頭を下げた。木場は銃撃の際のポジションを説明した。木場が先頭に立ち、田中は後方斜めに位置して補佐する。田中は警備会社でボディーガードの訓練を受けていたようで飲み込みは早かった。

 その後、木場は冷凍シチューを解凍し、牛肉を電磁調理器で加熱して食べた。食べられる時に食べておかないと次がいつになるか分からない。田中は既に食事を終えていたのでレトルト食品や缶コーヒーをバッグに詰めさせ、包丁や調理ハサミも用意させた。

 その後、この階をもう一度調べた。田中が第一保安室のロッカーで9ミリ弾を1ケース見つけた。何故か科学雑誌の間に挟んであり、木場だったら見過ごしていたはずた。どうやら彼は細かい事に気が付くようだ。

 「これ、何ですか?」

 田中はエアシューターに興味を示したので木場は一通りの説明をした。田中はこれを見た事も使った事も無いそうだ。ここの職員専用なのだろう。

 「へー…。あ、このチューブ詰まってるんですかね?」

 田中は操作ボタンの上にある表示パネルを指差して言った。『NO・2』と表記されている部分が赤くなっている。木場はその下のボタンを押したがうんともすんとも反応がない。

 「こう言う場合はですねえ…」

 と田中は呟き、エアシューター内部にあるカプセル収納口に手を突っ込んだ。そんな事をしても何もならないぞ、と言いかけた木場は驚いた。田中は緑色のカプセルを引き出したのだ。

 「やっぱり詰まってましたね」

 田中はカプセルを木場に手渡して言った。中には分解された銃器と紙切れが収まっている。銃器がカプセルの幅を少し越えている為に歪んで詰まってしまったらしい。

 「それ、P90ですね。正確にはFNモデルP90PDWのスタンダードですよ」

 と田中。

 「よく知ってるな」

 木場はP90と一緒に入っていた紙切れを開いて言った。紙には走り書きの英字で『俺は駄目だ。神のご加護を。スミス』とある。仲間の為に分解して送っただのろう。

 P90は銃身とグリップ部分と透明のプラスチックで出来たマガジンに三分割されていた。扱った事はないが組み立てるのは簡単だった。

 田中はガンマニアらしく、P90の利点をしゃべり立てた。

 マガジンには五十発入る。弾丸は実測5.56mmの口径で、アサルトライフルのを一回り小さくしたような形状をしている。主に9ミリ弾を使う拳銃やサブマシンガンより貫通力が高く、同時にストッピングパワーにも優れている。小型、軽量でドットサイトも標準装備で命中精度も高い。

 「この弾は命中すると体内でクルッと逆さになるから殺傷力も高いんですよ」

 と田中は得意げに続けた。木場はP90をロッカーに向けて引き金を引いた。連射になっていたので四発撃ってしまった。発射速度はM16系アサルトライフルより速く、音はクーガーより小さい。

 「な、なにするんですか!?」

 田中はびっくり仰天して尻餅をついて叫んだ。

 「試射しないといけないだろ?」

 「そ、そりゃまあそうですけど…」

 「いざという時にジャミング、つまり弾詰まりを起こせばこっちがやられる。人間が作った機械は必ず壊れるからな」

 「はー、やっぱり場数を踏んでいる人は言う事が違いますねえー」

 田中はまた感心して言った。木場は田中を無視して保安室を出た。

 「ちょっと、待って下さいよ!」

 田中はあたふたと木場の後を追った。木場が振り返ると田中は両手を前に突き出してこけた。木場は、役には立ちそうだがやっぱり漫画みたいなヤツだな、と思った。



続く

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