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Nobuyuki Takezawa

Author:Nobuyuki Takezawa
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※プレビュー画像はかなり美化しております。こんなに若くありませんしm(_ _)m でも、カラオケ好きなのでマイクを持たせました※

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【DD7】 今村夏美

 逃げろと言われて闇雲に走ったが、どこを走っているのか分からない。宿舎の建物に入れば良かったと思うけど、逆に遠ざかってしまったようだ。

 またライフルの発射音が聞こえた。夏美は首をすくめて振り返ったが、ここからだと梨花の様子は分からない。

 引き返そうかとも思うが、足手まといになれば意味がない。どこかに隠れて、しばらくしたら見に行くのがベストだと夏美は考えた。
 それにしてもいい人と出会えた。自衛隊員で、極秘任務で潜入していたなんて凄くカッコいい。それに顔もスタイルも素敵だ。なんだか宝塚の男役みたいだ。

 そう言えば、全て自分の理想像に当てはまる。夏美はちょっと不思議な感じがした。

 地下七階の研究室には行けなかったけど、梨花と出会わなかったらあの化け物に殺されていただろう。ならば、これからは梨花の指示に従うのが正解だ。

 その為にはまず安全な場所を探さなくてはいけない。夏美は近くにある変電所のような建物に向かった。

 その建物は二階建ての公民館ぐらいの大きさだ。窓は少なくて、宿舎の一部ではないようだ。ドアはカードキー式で、風雨にさらされないようにそこだけ電話ボックスのような密閉された造りになっている。

 ドアのロックは開いている。でも、中にあの化け物が居たらどうしよう。隠れるどころか死にに行くようなものだ。

 夏美はふと、何かが動いたような気がして隣の給水棟らしき建物を見た。目を凝らすと、テニスコートに数人の人影があるのが分かった。

 「うおー…」

 夏美はがっかりした。そして気味悪そうな声を出した。それらはゾンビだった。腹から腸を垂らしたのや、下顎の無いのや、テニスのラケットを持って自分の頭をしきりに叩いているのも居る。彼らはゾンビ特有の虚ろな足取りでふらふらと歩いていたが、時たまお互いにぶつがったり、手を振り回して叫んだりしている。

 月明かりとカクテルライトの下で、人の形をした人の魂のない存在が踊り狂っている。ここは死人の国に最も近い場所だと夏美は思った。

 先に進むのも危険なので、取り敢えずこの建物に入る事にした。あの化け物が居たらいつでも逃げられるよう銃を構え、慎重にドアを開けた。

 短い通路を進むと一つだけドアがあった。そのドアを開けるとムッとする熱気が襲ってきた。ビービービー、と警報のような音もしている。

 この広くて天井の高い部屋には大きな冷蔵庫のような機械が並んでいてた。熱はその機械から放射されていた。

 壁や天井には太いパイプが縦横に走っている。夏美は木場の説明を思い出し、ここが燃料電池による発電施設だと理解した。

 全部で二十機ぐらいもある発電装置にはメーターがいっぱい付いている。側面に取っ手も付いていて、握って引いたらパカッと開いた。中には大きなバケツのような形のカートリッジが収まっている。多分、このカートリッジに水素を詰め、無くなったら交換するようになっているのだろう。

 一般家庭用の、都市ガスを使った燃料発電装置も実用化しつつある。夏美はモデルルームに設置された装置を見た事があった。発電する際には熱が出て、その熱で水を温めて風呂などに利用するのだ。ここでも同じ方式だと思うのだが、この熱気は異常だった。夏美は顔から吹き出る汗を作業着の袖で拭った。

 ドアの近くには階段があり、上がると壁から張り出したように作られた小部屋に通じている。ここの管制室か何かだろうか。

 フロアの奥にも半開きの扉がある。夏美はまずそっちへ向かう事にした。

 扉をくぐったすぐ左手に、変圧器や填め込み式のモニターが設置されたスペースがあった。右手には赤黒い何かで汚れたシャッタードアがある。その前に作業姿の男がうつ伏せに倒れていた。

 夏美はそーっと近付き、男の顔を見た。やはりゾンビである。額に穴が開いていて、後頭部はえぐられたようになっている。ほとんどの脳味噌が外に飛び出ている。これなら復活する事はないだろう。

 木場や自分が持っている拳銃ではこんな傷は負わせられない。自分達の他にも、強力な銃器でゾンビを倒している人が居るのだろうか。

 夏美はゾンビを調べた。ついさっきまで腰が抜けそうなほど恐がっていたのに平気になってきている。人間ってどんな状況でも慣れるものだなあ、と夏美は自分に感心した。

 作業着のポケットにはB2Fと記されたカードキーが入っていた。他にも、ゾンビは腕にバッジのようなものを付けていた。それは盾のような形をしていて、スイッチらしきものが認められる。お洒落で付けているものではなさそうだ。

 夏美はバッジのスイッチを押してみた。別に何も起こらない。バッジを取ろうと掴んだらピンが外れて取れたので作業着のポケットに入れた。

 次に変圧器を調べた。横長のメーターの針がレッドゾーンを示している。熱処理がうまくいってないのだろう。このまま放置しておけば爆発するかも知れない。

 「これかな?」

 夏美は適当にボタンを押してみた。特に変化はない。別のボタンを押したら今まで緑色に光っていたランプが赤に変わった。

 「んー…」

 これはやばいかも知れない。機械の類は全然分からないけどなんとなくそう思う。また別のボタンを押したら今度は赤かったランプが緑色になった。

 突然、ガラガラガラと背後でシャッターが開くけたたましい音がした。ドアの開閉を管理しているボタンを押していたようだ。

 シャッタードアの向こうは燃料電池のカートリッジが山積みされていた。多分、燃料管理倉庫なのだろう。

 これだけの水素が爆発したら大変である。夏美は慌てて更にボタンを押しまくった。

 するとドーンという低い音がして、空調のダクトから冷風が吹き出してきた。と同時に警報音が鳴り止んだ。何のことはない、空調のスイッチが切れていたのである。

 ホッとして振り返ってギョッとした。大きな何かが燃料庫からのっそりと出てきたのである。

 それは梨花が相手をしているあの化け物に似ていた。でも背丈はずっと高く、全身に毛が生えている。顔は凶暴な狼のようだ。

 今居る場所は狭くて逃げ場はない。夏美はM84FSを取り出して構えた。

 撃てば当たる距離だ。ゾンビなら倒せる。でもこの狼男のような化け物をどうにか出来るような気がまるでしない。梨花が自分を避難させたのは、ゾンビなどとは戦闘力が違うからだと分かった。

 化け物はゆっくり近付いて来る。撃つべきか? 撃てばどうなる? 飛びかかってきて、首にかみつかれて…。

 「こ、こらあー!」

 夏美は化け物に向かって叫んだ。もうヤケである。

 「ぐるる…」

 化け物は耳まで裂けた口からうなり声を出した。夏美は『これまでか』と思ったが、そのまま十数秒が経過した。

 化け物は襲って来ない。ただ夏美を見ているだけだ。

 拳銃が恐いのだろうかとも思ったけど、どうも違うような気がする。何か変だ。こいつは襲う気がないのではないか? そう思った夏美は自分を落ち着かせて口を開いた。

 「む、向こうへ行って」

 驚いた事に、化け物は後ろに下がった。そして身を屈めてジッとしている。人の言う事を聞くように教育されているのだろうか。

 もしそうなら…、と思った夏美はもっと向こうに行くように『しっ、しっ』と言って手を振った。

 化け物は指示された意味を理解したかのよう後ずさっだ。人語を解するとしか思えない。

 「そこに居なさいよー…」

 と夏美は言い、ドアに向かって走り、発電装置の並ぶ部屋に大った。そして一目散に外に通じるドアまで走った。

 しかしドアはロックされていた。さっき押したボタンの中に、このドアをロックするのがあったようだ。

 しまったと思って振り返ったら化け物が目の前に居た。夏美は『おわっ!』と叫んで逃げた。

 夏美はドア横の階段を駆け昇った。そして小部屋のドアを開けた。

 その小部屋は地下四階の保安室と同じ様な作りだった。コンピューターとロッカーとエアシューターと机と椅子がある。そして死体もあった。

 でっぷりと太った警備員らしき服装の男が仰向けに倒れている。ゾンビ化はしていない。

 男の腹部は裂けて内蔵がはみ出ている。ゾンビに喰われたのだろうか。

 その時、夏美はゾッとした。開けたドアの横で何かが動いたのだ。夏美は部屋の奥に走って振り返った。

 黒っぽい奇怪な生物がドアの横に立っている。一見人間のようなフォルムだが、腕は六本で、指の代わりに鈎爪が生え、針金のような体毛に覆われている。目は昆虫のようだ。頭からは二本の長い触覚が伸びていて、口からはカミキリ虫のような牙が伸びていた。

 こいつは何だ? 二本足で立っているが、とても元が人間だと思えない。脇に幾つも穴が開いていて、そこからシューシューと息をしている。これは虫だ、虫男だ、と夏美は思った。

 虫男は、ゾンビやあの化け物とは全く違う。とてもこの世の存在とは思えない。夏美はM84FSを構え、撃った。嫌悪感と恐怖で頭がいっぱいで何かを考えている暇はなかった。

 だが、弾丸は外れた。虫男は六本の腕を広げて飛びかかってきた。鈎爪の先から緑色の汁が吹き出しているのが見えた。

 これは避けきれない。夏美は反射的に顔を両腕でかばい、逃げようとした。

 虫男の体毛が夏美の身体に触れた。が、次の瞬間に大きな物音がして、虫男がひっくり返った。

 ドスンと床が揺れ、グシャッとスイカが割れるような音がした。見ていたはずなのに何が起こったのか理解出来ない。

 虫男は床に這い跨って痙攣している。頭部は潰れ、得体の知れない組織が飛び散っている。

 その上にあの狼男のような化け物が居た。片足で虫男の潰れた頭を踏み付けている。化け物の手にはもげた虫男の腕があった。

 どう考えれば良いのだろう? 化け物が虫男の腕を掴み、もぎ取って頭を踏み付けて潰した? なぜそんな事をする?

 「しっ! しっ!」

 夏美は化け物に言った。化け物はさっきと同じように後ずさった。

 虫男の死骸から強烈な悪臭が漂い出てきた。夏美は口を手で押さえ、化け物を自分から遠ざけて部屋の外に出た。

 階段を降りて、配電盤のあるスペースへ行ってドアの開閉ボタンを押した。それまで赤かった一つのランプが緑に変わった。

 これで表に出られるはずだ。まず梨花の様子を見に行って…。

 「うっ…」

 夏美は急に吐き気をもよおした。頭もクラクラする。自分ではしっかりしているつもりでも、心の奥の方がかなり動揺しているようだった。

 どこかで休みたかった。梨花や木場と合流しなければ休むどころか命も危ない。

 そして出口に向かおうとした時、あの化け物が階段を降りてきて行く手を遮った。夏美はうんざりして、化け物を睨み付けた。

 「あ、あんた、あたしに何の用なのよ?」

 と夏美が化け物に訊いた。化け物は首を傾げた。その仕種はどこかで見たような気がする。

 「んー…」

 動こうとしない化け物の前で夏美は考えた。もしこいつが敵ならば、見境無く人を殺す生物兵器だったら、とっくに自分に襲いかかっているはずだ。でも、まだ攻撃してこない。それに偶然かも知れないが虫男を倒して危機を救ってくれている。

 「お?」

 化け物の後ろで何かが左右に揺れている。それは化け物の尻尾だった。尻尾はフサフサで、長くて太い。

 よく見ると、顔も狼というよりは犬っぽい。夏美は『可愛いかも…』と思い、化け物に少しだけ近付いてみた。

 化け物は首を更に傾げた。夏美はこの化け物が自分に敵意を覚えていないのを実感した。

 「お手…」

 と夏美は手を差し出して言ってみた。犬っぽいからするかな、と思ったら化け物がにゅっと右手を出したのでびっくりした。

 恐る恐る化け物の毛むくじゃらの手に触れた。人間の手に似ているが、肉球がある。爪も大きくて鋭い。まるでナイフのようだ。

 「あんた、大人しいのね」

 夏美は化け物の手を掴んで言った。化け物は口をパカッと開けて舌を出し、はふはふと息をした。



続く

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