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Nobuyuki Takezawa

Author:Nobuyuki Takezawa
電子書籍のトビラへようこそ!

当ブログでは、私の発行済みの電子書籍を紹介をしております。また、楽しんで頂けるようエンターテインメントブログを目指しています。ごゆっくりお楽しみ下さい。

※プレビュー画像はかなり美化しております。こんなに若くありませんしm(_ _)m でも、カラオケ好きなのでマイクを持たせました※

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【DD4】 木場誠二 アラン・ギア

 「ふう…」

 木場は溜息を吐いた。万が一、ってヤツは起こるときは起きる。そう覚悟して生きているつもりなのに、やっぱり『つもり』だったのだと思い知らされた。

 通路は正面、右手、左手に別れていた。正面は細長い通路が伸びていて、通路の左側にデータ管理室があり、右側にはウイルス保管室がある。

 右手の通路の奥のドアの前にはゾンビが二体、ぼーつと立っている。正面にも二体居るし、左手の通路にも一体居て、くすんだ目で木場の方を見ていた。

 自分と夏美が生き残れる可能はどれくらいなのだろう、などと思いながら今出てきたドアをロックした。

 状況から推測すると、感染が始まっだのは一週間ぐらい前だろうか。しかし、これだけゾンビがうろうろしているところを見ると職員は全滅だろう。たとえ感染しなくても、ウイルスに適応した固体に攻撃されればいつかはやられてしまう。

 木場はクーガーを構え、正面のゾンビに突進した。一体の頭部を弾丸四発で粉砕し、もう一体は足で蹴って倒した。もがくゾンビの首に銃口を押し当て、銃弾を二発撃ち込むとそいつは動きを止めた。

 振り返ると三体のゾンビがこちらに向かっているのが分かった。思ったより動きが早く、木場はその位置で残りの弾を全部使って二体のゾンビを倒した。

 マガジンを入れ替え、残る一体を撃とうとした時、そいつは飛びかかってきた。

 「つっ!」

 木場は首を掴まれた。ものすごい力だった。ゾンビは生ゴミのような匂いの息を吹き掛けてくる。

 ゾンビの左腕を振り払い、右腕の肘を掴んで押し上げ、木場はぐるりと一回転した。ソンビはバランスを失ってうつ伏せに倒れた。そして木場はマガジンの装填が終わったクーガーでゾンビの首を撃った。

 これで9ミリパラベラムを二十発消費した事になる。残りは四十発ぐらいだろうか。木場はバッグからホルスターに収まったサバイバルナイフを取り出した。

 夏美を無事に脱出させる為には障害となるゾンビは倒した方がいい。が、こんなに弾薬を使っていては駄目だ。いざという時に手も足も出なくなってしまう。ゾンビの動きを止めたらナイフでトドメを剌すべきだ。

 木場はナイフをベルトに挟み、クーガーを構えたまま付近を調べた。

 データ管理室、ウイルス保管室共にロックされていた。持っているカードキーではロックは解除出来ない。

 仮眠室らしい部屋を調べた。ベッドが四つ並んでいる。私物を入れておく為のロッカーの中にこの階のエレベータールーム用のカードキーを見つけた。

 なんだかカードキーだらけだな、と木場は思った。これらのセキュリティは外部からの侵入者に対してのものではなく、やはり各セクションの隔離を目的としているのだろう。バイオハザードが発生したら全てのセクションにロックをかける。そうすれば汚染は最小限に抑えられる、との考え方だ。

 木場はエレベータールームのドアロックをカードキーで解除して中に入った。そしてエレベーターの呼び出しボタンを押す。程なくチンと音がして扉が開いた。

 この階とB1F以外の階層表示ボタンが点灯していない。何の意味があるのだろうかと思い、B2Fのボタンを押してみた。

 地下二階に到着しエレベーターのドアが開くと、そこには軍服を着たゾンビが居た。足で蹴ってやり過ごそうかと思ったが、ゾンビの装備品が気になってクーガーで顎に穴を開けた。

 そのゾンビは何故か9ミリ弾をバラで八発持っていた。拳銃の類はない。落としたのか、それともまだ生きている連中に奪われでもしたのだろうか。

 この階のエレベータールームのドアはロックされていた。エレベーター内のボタンの点灯はこの事を示していたのだ。

 木場はまたエレベーターに乗り、B1Fのボタンを押した。地下一階のエレベータールームにはゾンビも人間も居ない。

 用心深くエレベータールームから出た。前方に真っ直ぐ伸びる長い通路がある。壁も床も灰色のコンクリートで塗り固められている。

 通路は途中で二股に別れていた。木場はマップを思い出した。真っ直ぐ進めばガレージで、右手に折れればリフトと倉庫があるはずだ。

 木場は右の通路に進んだ。そのリフトは、よく考えてみれば奇妙だった。物資を搬入、または搬出する為には地上にその入り口がなければならない。なのにリフト施設などマップにもなかったし、望遠カメラでも捉えていない。

 左手に大きなシャッタードアがある場所に着いた。幅も高さもかなりのものだ。右手の両開きの扉は倉庫のものだろう。

 シャッタードアの左の隅に、普通の大きさのドアがある。

 ドアノブの周辺は焼け焦げが出来ていた。見ると、深い切れ目がある。木場はドアを押してみた。

 内側にもう一つドアがあり、そのロック機構も何かで切断されていた。誰かがガスバーナーか何かでロックを焼き切ったようだ。

 木場はドアを開け、驚いた。大型リフトの中はヘリコプターがあったのだ。

 ヘリは複座式だった。ボディはスリムで二つのガスタービンエンジンがある。どう見たってこいつは戦闘ヘリのアパッチだ。こんなものがこんな所にあるって、どういう事だ?

 部品をバラして運び込んで組み立てたのは分かる。分かるが、それだけでもとんでもない手間だろうし、第一こんな武装ヘリを日本国内で飛ばしたら外交問題になるはずだ。そうまでして必要だという事は、それだけ重要人物が居るって事なのだろうか。それとも、いざという時に何としても運び出したいものがあるとか…。

 アパッチの近くに、台座に備え付けられたガトリングガンを発見し、調べてみた。帯状に連なった給弾ベルトがセットされている。これは取り付けるつもりでここに置いてあるのではなく、取り外したものだ。その証拠に砲身を回転させるモーターの動力源としての大容量バッテリーも用意されてあった。

 他に『火災用緊急ボックス』と記されたステンレスの大きい箱がある。ガラスの窓と取っ手があって、中にはアルミ製らしい大型の銃が収まっていた。棒のような銃身で、ボンベのようなものが銃身の上に乗っている。赤いボタンの下に『緊急時にはこのボタンを押して下さい』とある。

 ヘンテコな銃だ。でもどこかで見たと思ったら、ドキュメンタリー番組でやってた東京消防庁で実際に使用されているインパルスガンにそっくりだった。インパルスガンとは、水を高圧空気で放出する消防用の機材だ。持ち運びに便利で、初期火災にはかなり効果がある。水で火を消す、というよりは水混じりの圧縮空気の勢いで吹き消すのである。

 木場はアパッチのコックピットを調べた。特にめぼしいものは無かった。ガトリングガンは強力な武器だがとても持ち運べるものではない。インパルスガンもソンビを怯ませるぐらいには役立っても殺傷力はないし、荷物になるだけなのでそのままにしておく事にした。

 リフトに対面している倉庫は梱包されたままの研究機材や木箱などが置かれていた。

 倉庫の中ではゾンビが二体、床に倒れた死体を貪り喰っていた。死体は軍服を着ている。木場はクーガーとナイフを使い、ゾンビを倒して軍服の死体を調べた。

 死体は対人用ショットガン、スパスを握り締めていた。散弾が三発、弾層に残っている。死体の防弾ベストには十四発残っていた。こんな装備をしているのに、どうしてゾンビに喰われていたのだろうか。

 「お?」

 死体の首が鋭利な刃物のようなもので切り裂かれている。頬骨も分断されていた。余程の達人でない限り、日本刀でもこうは見事に切れないだろう。

 傷口をよく観察すると、切り口の組織が縮れて焦げているような痕があった。レーザーメスを使えば似たような状態になる。しかし、首を切断するレーザーメスなんてあるのだろうか。

 木場はクーガーをジーンズの尻ポケットに入れ、スパスを持った。拳銃よりショットガンの方が攻撃力が高いが、装備が増え、バッグも抱えているので動きづらい。

 元の曲がり角に戻り、通路を進む。程なく広いガレージスペースに出た。

 そこはデパートなどの地下駐車場とよく似ていた。車は一台も停まっていない。

 地上と出入りする為のスロープはなかった。その代わりに、大型トラックが乗せられそうな大型リフトがあった。

 リフトの昇降スイッチのボックスが壁に取り付けられている。鍵が必要な造りになっているが、これも焼き切られていて、中のコードが直結させられていた。

 木場は昇降スイッチを押してリフトに乗った。リフトは『ゴウンゴウン』と音を立てて、ゆっくりとせり上がって行った。

 「なるほど…」

 と木場は呟いた。そこは地下とそっくりなガレージだった。上がりきったリフトはよく調べないとそれとは分からないようになっている。つまり、ここは地下の施設に物資を運び込む為の秘密のリフトルームだったのである。

 ガレージには黒いワゴン車が停めてあった。丘に這い蹲っていた時にゲートで見た車だ。ドアロックが掛かっていたので窓から中を覗いてみたが、特に変わったところは無い。

 木場はガレージのシャッターを引き上げた。目の前には芝生の敷地が広がっている。腕時計を見ると時刻は午後十時十七分だった。

 暗いだろうと思っていたのだが、結構明るい。宿舎はライトアップされているし、向こうに見えるテニスコートの夜間照明も点灯している。

 宿舎の横に犬舎があった。木場はそーっと犬舎を覗いたが、何も居なかった。エサを入れるプラスチックのボールが転がっているだけだ。

 ゾンビ化した犬は人間のゾンビより遥かに厄介だ。足も速いし、何より牙が怖ろしい。噛まれたら高確率でゾンビ化してしまうだろう。人間が素手で戦える相手ではない。

 犬は居なかったが、その代わりに遠くのフェンスの辺りに白い人影が二つ見えた。手を前に出し、よろよろと歩いている。木場はスパスを構え、ロメロの初期の映画に出てくるような『さまようゾンビ』に気付かれぬよう、ガレージ右手にある倉庫の壁に沿って進んだ。

 なんてこった、どこもかしこもゾンビだらけだ、と木場は思った。生き残っている者が居るとは思えない。

 もし敷地の外にゾンビが出てしまったらカラカルシティの二の舞になる。それだけは阻止したいが、弾薬が心許ないし、一人では不可能だ。なんとか警察に連絡し、事故でも起こったとか言って人を呼ばないといけない。

 木場に気付いたゾンビが迫ってきた。木場はゾンビをやり過ごしてゲートの詰め所に向かおうとした。

 「おっ!?」

 木場はうずくまる二つの黒い生き物を見て思わず声を出した。それはドーベルマンだった。近くのゾンビを無視して寝そべっていた所をみると、ウイルスに感染しているのは間違いない。

 ゾンビはゾンビを襲わない。これは体内に巣くうウイルスの働きのせいだ。共喰いしないように宿主の本能を調節するらしい。

 木場は二匹のドーベルマンに散弾をぶち込んだ。一匹は顔面から肉片を飛び散らせ、もう一匹は左の前足がちぎれ落ちた。すかさず予備弾をスパスに装填する。そしてその場から走り抜けようとしたが、ドーベルマン達はすぐさま体勢を立て直して飛びかかってきた。

 「くっ!」

 木場は続けざまに三回、スパスを撃った。ゾンビ犬は全身に小さな鉛玉を受け、後方へ吹っ飛んだ。それでやっと動きを止めた。

 木場は近くに来ていたゾンビの胸にもスパスで大きな穴を開け、詰め所に急いだ。その途中、またゾンビが迫ってきたので今度はクーガーで対応した。

 詰め所ドアはロックされていた。木場はドアの横の小窓から中を覗いたが誰も居なかった。詰めていた警備員がゾンビ化していたなら鍵を掛けるはずがない。恐らく、この状況に対応する為に外に出たのだろう。

 木場はドアを調べた。鉄製の、頑丈な造りだ。でも地下施設のドアの様な電子ロック機構ではないので、スパスで壊す事にした。

 跳弾を避ける為にドア正面から斜めの位置に立ち、木場はスパスの引き金を引いた。そしてドアノブを回す。

 まだ駄目だ。二発、三発、四発目でやっと破壊に成功した。

 詰め所は六畳程の広さだった。事務机に電話があり、木場は受話器を取って耳に当てがったが何の音もしない。多分外部と接触出来ないような非常用の措置がなされているのだろう。

 ゲートの開閉装置が壁に設置されているが、オープンのボタンを押しても反応がない。よく見ると鍵穴が付いていた。開閉装置の隣りに小さなキーボックスがあるが、中は空だった。警備員が持ち出しているのだろうか。

 となると、まずは警備員を探すべきだ。木場は宿舎に向かった。

 宿舎のガラスドアはロックされていなかった。ロビーにはゾンビの姿はない。が、微かに何かが動き回っている音はしている。

 ロビーの受付の横にある警備室を覗いた。赤い縁の眼鏡をかけた若い女の死体が転がっていた。顔が白く、皮膚が剥落しているのでゾンビだと分かるが、顎と鳩尾に穴が開いていて血が溢れていた。

 拳銃で撃ち殺されたとしたら、誰がやったのだろう。木場は用心深くロビーの奥に進み、来客用の待合い室に入った。ここにもゾンビの死骸があった。バーや食堂や調理室、その他至る所がゾンビの死骸だらけだった。

 木場は遊戯室らしい部屋に入った。ビリヤード台や、ポーカーをする為の丸いテーブルがある。部屋の隅には大型のテレビが置かれていて、座り心地の良さそうなソファがあった。木場はそのソファにカーキ色の布製のバッグが置かれているのを発見した。軍用のバッグのような感じがしたので木場は触ろうとした。

 その時、何処かから『カチッ』という音が聞こえた。木場はギクリとして身をこわばらせた。聞き間違いでなければ、それはリボルバー式の拳銃の撃鉄を上げる音だ。

 木場はゆっくりと音のした方を向いた。部屋の入り口に男が立っている。両手でシルバーメタリックの拳銃を構えていた。

 「ゾンビ、じゃないな」

 と男は英語で言った。男は昨日、ワゴン車から最初に降りたヤツだった。

 男は背が高く、黒いダブルの背広を着ている。年齢は四十歳ぐらいだろうか。オールバックにした髪は少し乱れていて額にかかっている。

 「銃を下ろしてもらえるかな?」

 木場は流暢な英語で男に言った。男は片方の眉を上げ、木場の顔をじっくり見てから拳銃を、コルトパイソンを下げた。

 「どこかで見た顔だな。…日本人か?」

 「ああ」

 男はゆっくり木場に近付いて来た。木場は誤解を招かぬようスパスを持った両手を上げ、ベルトに差したクーガーが見えるようにした。

 「確か男女の二人組が捕まったと聞いたが…」

 「拉致監禁は重罪だぞ」

 「アライグマのせいだ」

 「は?」

 「実験用のアライグマが敷地の外に逃げて捜索していたらしい」

 「相変わらずトコトンずさんな管理をしてるようだな」

 木場はそう言うとコーヒーの自販機に歩み寄った。男は拳銃の撃鉄を戻し、ソファにどっかりと腰掛けた。

 木場は熱いコーヒーが注がれた紙コップを二つ持って男の前のテーブルに置いた。自分は向かい側に座る。

 「ありがとう。丁度飲みたいと思っていたところだ」

 男は紙コップを持ってコーヒーを啜った。木場もコーヒーに口を付けた。うまい。木場は喉が渇いてた事を知った。

 「ここのゾンビはみんなあんたがやったのか?」

 と木場が訊いた。

 「何人か部下がやられてしまった。ところで、君が持っているスパスは私の部下の物だ」

 「返せ、と?」

 「いやいや、自分の身は自分で守るべきだ」

 男は木場の顔を再び注視して口を開いた。

 「…君はセイジ・キバか? ジャーナリストの?」

 「俺はカーサの残党の間では有名らしいな」

 「私は無関係だ」

 「え?」

 「自己紹介しよう。アラン・ギアだ」

 男はそう言って握手を求めてきた。木場はためらいつつ身を乗り出して男の手を握った。

 「木場誠二だ」

 「なかなか腕が立つようだな。ファイルで読んだ事があるが、イスラエルで軍事訓練を受けたとか?」

 「モサドに情報を提供した事があってね。スパイってわけじやないんだが。それで見返りに兵士の真似事をさせてもらったんだ」

 「なるほど」

 「で、あんたはどこで俺の事を記したファイルとやらを見たんだ?」

 「そうだなあ…、取り引きしよう」

 「取り引き?」

 「この状況を乗り切る為には協力し合う方が好ましい。それには多少なりとも信頼感が必要だ。私が身分を証さない事には君は私を信用しないだろう。そこでだ、本当の事を言う代わりにマスコミへの発表は控えて欲しい」

 「無理だ。ここは日本だ」

 「どこでも同じだ」

 ギアはそう言ってまた方眉を上げてみせた。薄い唇の端を反らせて微笑んでいるような表情を作っているが、目は冷徹そのものだ。

 「爆撃でもするつもりか?」

 と木場。

 「ここの動力源は燃料電池発電だ。つまり、大量の水素があるわけさ」

 「爆弾も?」

 「当然。ナパーム油脂もある」

 「燃え残った物から足がつくぞ」

 「この施設は焼却炉のような構造になっている。爆発で各階の床が抜ける。最下層には燃料と空気の取り込み口があるわけだ。理論的には1200℃で一時間燃え続けるとさ」

 「よくまあいろんな物を運び込んだものだな」

 「モグラを飼い慣らして港との間にトンネルを掘ったらしい。物資の搬入は簡単だったそうだ」

 木場はキョトンとした顔になった。ギアは『くくく』と低い声で笑っている。木場は呆れて頭をぼりぼりと掻いて口を開いた。

 「こういうのはどうだ? あんたの事だけは伏せておく」

 「ふむ…。私に関連した事も伏せてもらいたいが?」

 「いいだろう」

 「では早速交渉だ。マグナムか9ミリ弾を分けてくれないか? 手持ちがもう殆ど無いんだ」

 「ちょっと待て。あんたの身分を証すのが先じゃなかったか?」

 「おっと失礼。私は、えーっと、そうだな…。合衆国の某国防組織からグレースケミカルのお目付役として派遣されていた者だ」

 「某って、CIA? FBI?」

 「自分からは言いたくない」

 ギアはパイソンのシリンダーに四発のマグナム弾が大っている事を木場に示して言った。そして背広の下のホルスターからベレッタM92Fを取り出し、マガジンを引き抜いた。中は空だった。

 「全部ウソだろ?」

 木場が言った。

 「まだ弾は残っている。ウソを言うぐらいなら君を殺しているさ」

 「ふむ…」

 木場は9ミリ弾を二十発、ギアに渡した。ギアは『サンキュー、ミスター』と言って受け取りマガジンに装填して、思い出すような口調で話し始めた。

 「私はカーサが解散した直後、逃亡した研究員の捜索を命じられた。私達のグループは優秀でね、ものの一週間ぐらいで多くの研究員を確保した。そして研究内容を聞き出して驚いた。君もよく知っていると思うが、連中はウイルス兵器以外に、ウイルスによる生物兵器を作っていたんだ。慌ててそれらの資料と実験機材を回収したがね」

 「まるでアメリカ政府は関知していなかったような口振りだな」

 「ふふ。ウイルス兵器の開発は国防省が絡んでいて、バックアップしていたのは事実だよ。核に代わる大量殺戮兵器を保持していたいからな。でも人型の生物兵器の開発は無意味だ」

 「どうして?」

 「人間を改造して兵器にして、それを配備したらどうなる? 非人道的だと世論が大騒ぐだろうな。第一国民が許さない。我が国は世界一動物保護にうるさいから人間以外の動物を使ったとしても結果は同じだ。大統領は責任をとって辞職、関係者一同は更迭、乃至クビさ」

 「だったらどうしてここで生物兵器の実験をしている?」

 「生物兵器の納入先は合衆国ではなかったんだ」

 「は?」

 「連中はロシア、中東、アジアの各国と契約を取り付けていたらしい。過激なテロリストグループともな。木場君、ヒドゥンって知っているだろ?」

 「あ、ああ」

 ヒドゥンとは、人間をベースにした生体兵器だ。ゾンビのように本能だけで動くのではなく、命令された事を忠実に守る性質がある。また、両手の爪が異常発達し、一撃で人間の首を刎ねる事も出来る。感染者に薬物による調整を加えればヒドゥンになるらしい。

 「例えば、今の日本にヒドゥンを一匹放したらどうなる? 手当たり次第に人間を殺すよう命令して」

 「シミュレーションしたのか?」

 「まあな。コンピューターが出した結果は少なくて一日で百数十人、多くて千人弱ってとこだ。日本では一般市民が銃器を持ってないから殺し放題だな」

 木場は自分が想像していた事をギアから聞かされてゾッとした。日本の警察の火力は低く、ヒドゥンを殺すまでに相当な時間が掛かるだろうし、自衛隊に出動命令が出るまで更に被害が増えるだろう。しかも、ヒドゥンはその名の通り、身を隠しながら行動する。下水道に隠れたら跡を追う事も出来ない。たった一匹でこの事態だ。数が多ければ、日本は大打撃を喰らう。

 「確か、『多くの研究員を確保した』と言ったな?」

 と木場が訊いた。

 「勘がいいね。カーサの研究員のうち、十数名の行方を掴めなかった。恐らくどこかで研究を続けているはずだ。だから我々はグレースケミカルを隠れ蓑として元カーサの研究員を配置し、再び生物兵器の研究を開始した。合衆国にもここと同じような施設があるが、スパイが暗躍しているし、事情を知らされていない我が国の国防組織も動いている。幸い、日本は他国の干渉が及びにくい。外人がうろつくと目立つしな。リスクは分散させるのが一番だ」

 とギア。木場は少し考えて口を開いた。

 「…アンチ生物兵器を開発していたのか?」

 「そうだ。人間の運動能力を這かに凌駕する生物兵器に対抗するには、同じ生物兵器を投入するのがいい」

 「迷惑な話だ」

 「それは違うぞ。テロリストが東京や大阪にヒドゥンを放した後に金銭を要求すれば、日本は言いなりになるしかないだろ? テロリストに屈するのが日本政府じゃないか」

 木場はギアの物言いにムッとした。まるで『お前の為にやっているのだ』と聞こえる。

 「俺が言ってるのはバイオハザードを起こした事だ。二度も三度も四度もバイオハザードを起こすなんてどうかしてるぞ」

 「ふむ。…私もそれが不思議でね」

 「ふざけるな」

 「アライグマは居なかった」

 「は?」

 「アライグマが実験動物として搬入された記録はない。だが、所員がフェンスの外をうろついているゾンビ化したアライグマを目撃した。君達を保護した後にな」

 「拉致だ」

 「すまんな。で、拉致した後、アライグマを捕獲して調べた。見掛けはアライグマだが中身は別物だったそうだ」

 「別物?」

 「脳は半分の大きさで、消化器官の代わりに脂肪が詰まっていた。排泄器官も無かった。他にも奇怪な点が山ほどあったらしい」

 「何なんだ、それは?」

 「さあね」

 とギアが言った時、部屋の外で物音がした。木場は遊戯室の窓を見た。人の形をした影がある、と思ったらソレは窓を突き破って室内に進入してきた。

 木場とギアは後方に飛び退いた。木場はスパスを、ギアはパイソンを構えた。

 「な、なんだコイツは?!」

 木場がギアに訊いた。そいつは軍服のような服を着ている。背丈は百七十センチぐらいだろうか。コードが付いた、奇妙な形のナイフを持っている。

 最初は人間かと思った。髪の毛は黒くて刈り上げているし、コーカソイド系の顔立ちはなかなか端正だ。しかし、顔がペンキを塗ったように真っ白で、目には白目が無く、真っ黒だ。そいつは腰を屈め、今にも襲いかかって来そうだ。

 「デストロソルジャーだ」

 ギアが後退しながら言った。

 「なんだと?」

 「デストロの改良版だ」

 「デストロってZウイルスによる肉体変容の人間型の最終形態だろ? しかし、コイツはデータで見たのと全然違うぞ」

 「デストロソルジャーは対生物兵器の切り札として開発された。あらゆる武器が扱えて特定の人間の命令に服従する」

 ギアはそう言いつつ、背広の内ポケットから小さな盾のような形をしたバッジを取り出し、それを腕に取り付けた。そしてバッジ触れた。

 キーンという甲高い音がバッジから発せられ、すぐにその音は止んだ。するとデストロソルジャーは木場の方を向いた。

 「お、おい!」

 木場が叫んだ。ギアが付けたバッジは、彼の言う『特定の人間』を示すものだと木場は悟った。

 「俺を襲わせるつもりか!」

 「まさか」

 「だったらどうにかしろ!」

 「あいにく、これは一人用でね。頑張って倒してくれ」

 「この野郎!」

 「私には使命がある。生き残ったらまた協力しよう」

 ギアはそう言うと駆け足で遊戯室を出て行った。木場はそんなギアの態度を見て『スタコラサッサ』という表現を思い浮かべた。

 「ぬうう…」

 木場はスパスを構えて唸った。ゾンビやゾンビ犬とは桁違いの脅威を感じる。ギアがさっさと逃げ出したのもデストロソルジャーの戦闘力を知っているからだろう。

 デストロソルジャーは手に持ったナイフの柄を回した。訓練された人間のような仕草だ。するとナイフが青白い光を放ち始めた。

 ナイフから伸びたコードはデストロソルジャーの腰にくくりつけられている重そうな箱に繋がっている。嫌な予感がした木場はスパスの引き金を引いた。

 散弾がデストロソルジャーの胸に命中した。が、ヤツは全く怯まずに接近し、ナイフを横に振った。

 木場は真横に飛んだ。間一髪でナイフから逃れる。デストロソルジャーが振ったナイフはソファにめり込んだ。

 ソファはボフッと音を立てた。煙も吹き出している。ヤツの持っているのはどう考えてもレーザーナイフだ。

 とすると、地下の倉庫で死んでいた軍服姿の男はこいつにやられたに違いない。彼がギアの部下なら軍事訓練をたっぷり受けていたはずだ。それなのに殺されている。

 「くそっ…」

 木場はジリジリと接近してくるデストロソルジャーにスパスの銃口を向けたまま呟いた。よく見ると、軍服の下に防弾ベストを着ているのが分かった。『生物兵器に限らず生きている存在は全て抹殺しろ』などと命令されているのだろうか。

 狙うのは顔面しかない。が、スパスは反動が大きく連射が出来ない。撃った瞬間に自分の首が飛ばされそうな気がする。

 考えている場合ではなかった。木場は後退すると見せ掛け、屈んで突進した。デストロソルジャーはレーザーナイフを振った。青白く発光するレーザーの刃は木場の頭上をかすめた。

 格闘戦は間合いを外すのが鉄則だ。相手が生物兵器でもナイフで攻撃してくる以上この法則に当てはまる、と踏んだ木場の作戦は成功した。

 木場はデストロソルジャーに密着し、スパスの銃口を下に向けて撃った。散弾が太股をえぐり、血と肉が飛び散る。

 「ガッー!」

 デストロソルジャーは吠え、木場から離れようとした。木場はその動きに追随して再び散弾を撃ち込んだ。

 次の瞬間、木場は衝撃を受け、後方に倒れた。何が起こったのか理解出来ない。デストロソルジャーは離れた所に立って負傷した自分の足をジッと見ている。

 『攻撃しなければ』と思った時、デストロソルジャーが窓に向かって歩き出した。そしてスタスタと、人が歩く普通の速度でヤツは窓枠を乗り越えて姿を消した。

 木場はしばらくの間、窓の方にスパスを構えていた。やがて息をするのが辛くなってきた。左胸が痛い。ヤツが木場を引き離そうとした時に胸に肘打ちを入れられていたのだ。

 自分がまだ生きているのが不思議だった。人型生物兵器の生命力はすさまじい。至近距離でのショットガン攻撃を耐え、超短時間で回復さえする。なのにどうして去ったのか?

 木場は不可解なデストロソルジャーの行動を推測しようとしたが、しばらくの間ヤツ体臭、鼻にツンとくる消毒液と腐った内蔵のような体臭だけを強く感じていた。



続く

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