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Nobuyuki Takezawa

Author:Nobuyuki Takezawa
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※プレビュー画像はかなり美化しております。こんなに若くありませんしm(_ _)m でも、カラオケ好きなのでマイクを持たせました※

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【DD2】 吉岡梨花

 国道から宿舎に通じる私道に沿って下水道が設置されている。浄化槽である程度綺麗になった汚水が下水道を通って河川まで運ばれる。宿舎では多い時で百人近く滞在するからあって当然の施設ではある。

 下水道の直径はーメートルぐらいしかない。その中を特殊な防水服を身にまとった吉岡梨花が這いずっていた。

 河川の下水口から進入してから既に四時間か経過している。時々大量の下水が押し寄せてきて溺れ死にそうになったが、そろそろ宿舎に到着するはずだった。

 程なく進行方向に明かりが見えた。ザーッという水が流れる音も聞こえる。

 梨花は狭苦しい下水道からやっとの事で外に出た。そこは防水加工されたコンクリートの空間だった。一旦汚水をプールする為にあるのだろうかと思ったが違った。

 ここには宿舎に通じているであろう下水口と、もう一つの巨大な蛇口のようなものがある。段差になった部分に昇ると蛇口の横にドアがあった。

 ドアに鍵はなく、開けてみるとポンプ室だと分かった。情報ではここから下に降りられるはずだった。

 梨花は防水服を脱ぎ、折り畳んでポンプの機械の間にねじ込んだ。防水服の下にはここで使われている薄緑色の作業員用ツナギを着ている。それから装備を確認した。

 旧ソ連製の強力な拳銃、トカレフとそのマガジンが三つ、作業服の内ポケットに納まっている。これが自分の手に渡ったルートを詳しくは知らないが、暴力団関係者から押収した物らしい。

 弾丸は7,62×25mmのトカレフ専用弾だ。9ミリパラベラムなどに比べると貫通力もストッピングパワーも遙かに大きい。それにマグナム弾が秒速250メートルぐらいの速度なのに対して、トカレフで使う7,62×25mmトカレフ弾は400メートルもある。一時期、警察が防弾ベストを対トカレフ仕様に入れ替えた程の殺傷力を持つ。

 腰のベルトの内側には小さなプラスチックのケースが挟んである。注射器を兼ねたそのケースの中には麻薬成分を合んだ液状の鎮静剤が収まっている。全部一度に使えば自殺出来るし、分量を調節すれば眠り薬にも使える。止血、鎮痛にも使える優れものだ。

 他にジッポライター型のカメラもある。女がジッポを持ってるのは一般的には変だと思われるが、適当な撮影機材がなかったのでしょうがない。

 梨花はポンプ室の奥に電子ロック式のドアを見つけた。田中という日本人警備員をたらし込んでコピーした力-ドキーを取り出し、スライド式の読み取り機に通す。

 力-ドキーは改造して汎用性を持たせてある。もしこれでダメなら諦めて引き返すしかない。

 が、ドアはドシュッと音を立てて開いた。見た目より遥かに分厚く、密閉性は高そうだ。バイオハザードを想定しているのは間違いない。

 そこは、六角形の小さなガラス窓が蜂の巣のように並ぶ小部屋だった。三十センチぐらいの大きさの窓からは青白い光が漏れ出ている。梨花は何だろうと思って中を覗いた。

 六角形をしたものはオゾン発生装置だった。これは取り外し可能で、中には無数の針が並んでいてそれぞれの針先から放電しているのが分かる。ここで発生させたオゾンを汚水に混ぜて滅菌しているのだろう。

 部屋の隅に地下に通じる小型のリフトがあった。梨花はリフトに乗り、下向きの矢印が付いたボタンを押した。

 リフト抗に沿うように配水管が設置されている。このリフトは配水管の管理に使うようだ。

 リフトはどんどん下降してゆく。やがて足元から薄暗い通路が現れ、リフトが止まった。人の気配がないのを確認してリフトを降り、通路を進む。

 通路の壁も床もダムで使うような速乾性のコンクリートで塗り固められていた。出来て間がないようで仕上げは粗く、表面はでこぼこしている。

 通路は広そうな場所に通じていると分かった。どうする? 既に要所だと思われる所は写真に収めている。

 宿舎に搬入されたであろう物資と、搬出された土砂や廃棄物の量は数パーセントの誤差で算出されている。こんな事は通行車両をこっそり検査すればすぐに分かる。カーサの悪行を暴いたというルポライターも同じ手法でここに何かがあると突き止めているはずだ。

 でも証拠は多い方が、そして具体的な方がいい。この先にそれがある可能性があるなら進まなければならない。

 梨花は通路から身を乗り出した。そこには大きなプールがあった。水は緑色で濁っているが、汚水を溜めておく為の場所ではなさそうだ。

 プールは二つに区切られていてた。梨花は自分を落ち着かせてそこを渡った。

 妙な圧迫感があり、梨花の足を早めた。水の中に何か居る。そう思えて仕方がない。

 しかし、そうだとしても恐れる必要などありはしないはずだ。居たとしても魚だろう。たとえサメが襲ってきたとしても、丘の上では無力だ。

 プールの向こう側に頑丈そうな造りのシャッターがあった。幅はそう広くない。シャッターというより引き上げ式の鋼鉄製の仕切りだ。

 ドアの下に少し隙間がある。梨花が手を掛けると、思いの外軽く上がった。

 綺麗な通路が伸びている。滅菌効果のある塗装が施されているようだ。ここにも誰も居ない。

 通路の行き止まりもシャッタードアだ。その少し手前の右側にカードキー式のドアがある。

 何の為に使うのか知らないが、これだけの施設があると分かればもうここには用はない。梨花は引き返そうとした。

 が、カードキー式のドアが気になる。何故気になるのかと思ったら、緑色のランプが点灯していた。このドアはロックされていない。

 梨花はドアの開閉ボタンを押した。その部屋はコンピューターや何かの専門の機材が設置されていた。誰も居ない。

 点けっぱなしのモニターに、ここのセキュリティの状態が示されている。殆どのドアがロックされていて、幾つかの部屋は赤く表示されている。エレベーターも使えないようだ。

 何かがあった。梨花はそう感じていた。別のモニターには大きな熊が映し出されている。椅子と、モニターの前のマウスがひっくり返っていた。

 熊の画像の横には、英語で実験経過報告のような文章が表示されている。熊は北海道産のヒグマで、実験名は『タイフーン』だ。

 マウスを使ってファイルを開く。そして現れたヒグマの写真に梨花は息を呑んだ。体色は赤っぽくなり、身体が一回り大きくなっている。その次のページでは目が真っ黒になって、肩と胸部の筋肉が露出し、頭部の毛は抜け落ちて皮膚が硬化している。このヒグマ、タイフーンはウイルスで創り出された生物兵器だ。

 「ふう…」

 と梨花は溜息を吐いた。カーサはウイルス兵器の製造とバイオハザードを引き起こした罪で一旦は消滅した。そしてグレースケミカルとして復活したが、まさかこの日本で同じ事をしているとは…。

 巷で流行している新型麻薬の製造元、または技術提供者がグレースケミカルだと踏んでの潜入捜査だった。勿論、生物兵器も作っている可能性も考えてはいたが、それはまず無いと思っていた。

 梨花はモニター画面をジッポに偽装したデジカメで写しまくった。データを直接メモリーカードに落とせばいいのだが、データをコピーする際にトラップが仕掛けられている可能性もあるからだ。

 タイフーンは狂犬病に似た症状を示していた。頭部に攻撃対象を認識させる為の電子装置を埋め込んであり、特定の周波数の音波で制御しようとしていたが、どうやら失敗に終わりそうだと書いてある。

 セアカゴケグモという毒蜘蛛の遺伝子を組み込み、更に攻撃力を高めようとした事に原因があるそうだ。遺伝子が変異したのではないだろうか。

 巨大なワニガメの生物兵器の資料もあった。実験名は『ポセイドン』となっている。こちらも全長が六メートルを越えた時点で制御不可能となり実験は中止されている。来週には廃棄処分にする予定だとある。あのプールにこの凶暴な顔のワニガメが潜んでいたのかも知れない。

 他にもヒドゥンという人間に似た生物兵器のファイルがあった。梨花は開発過程の概要にざっと目を通して眉をしかめた。

 ヒドゥンは人間をベースに造られているのだ。成人男性が主に使われていて、まれに少年や少女も使用するとある。これらの被験者は一体どこから連れて来るのか…。

 基本タイプがヒドゥンAとなっている。水性適応タイプや牙に毒を持たせたタイプもある。最も目を引いたのがDタイプだ。Dは人間に対する忠実度を上げる為に犬の遺伝子を組み込んである。

 モニターに出したヒドゥンDタイプの姿はオリジナルのヒドゥンとかけ離れていた。背も高く、シルエットは人間に近い。体毛が生えていて、たてがみもある。まるで狼男のようだ。

 科学者の欲望はとめどないものだな、と梨花は思った。怪物を造っているのだとは思っていないに違いない。

 まだファイルがありそうだったがもうこれで十分だ。後は来たルートを引き返し、上官に資料を渡して報告すればそれで終わりだ。大阪地検の強制捜査が行われるか、この資料を使ってアメリカと取り引きするのか知らないが、自分は元の身分に戻るだけだ。

 しかし、部屋から出た梨花は足を止めた。通路の奥のシャッタードアが気になる。もしその向こうに実物の生物兵器が居れば、それを撮影出来れば決定的な証拠となるだろう。

 行ってはいけない、と心のどこか思っているのに足はシャッタードアに向かっていた。ドアにロックは掛かっていない。ボタンを押すとカラカラと音を立ててシャッターが開く。

 「うっ!」

 梨花は手で口を押さえた。ものすごい異臭だ。獣の匂いと、吐き気を催す何か別の強烈な匂いがしている。

 そこは大きな空間で、壁には鉄板が張られていた。右手前方に檻がある。檻の扉は開いていた。

 床には死体が転がっていた。作業着を着ているのが三体、白衣が二体だ。頭が砕けているのとか、はらわたが出ているのや背中が割れているのやら、目をそむけたくなるような状況になっている。

 死体は真新しく、血もまだ乾いていない。ここは危険だ。こんな所でウロウロしていたら自分もああなってしまう。梨花はきびすを返そうとした。その時、頭上で何かが動いた。

 梨花はゆっくり仰け反って、上を向いた。赤っぽい塊があるなと思った瞬間、それは落ちてきた。

 咄嵯に横に飛び退いた。ドスン、と重々しい音がして、梨花は車に跳ね飛ばされたようにものすごい勢いで床を滑り、転がった。

 「くっ…」

 右の脇腹に激痛が走った。見ると作業着が裂けて血が吹き出している。そして起き上がろうとした梨花の目前にとんでもないものが居た。

 それは赤い毛に覆われた巨大なヒグマだった。コンピューターのファイルにあったタイフーンに違いない。この部屋を見渡した時に見えなかったのは天井の梁に逆さになってぶら下がっていたからだろう。

 タイフーンは真っ黒な目で梨花を見た。泡混じりのヨダレが口の端から溢れている。二対の長い牙は血で汚れていた。太い前足にも血が付いている。それは梨花の血だった。

 梁にぶら下かって気配を消して獲物を待つなんてヒグマの習性ではない。最早こいつは別の生物だ。梨花はチラッとそう思いつつ、トカレフを取り出した。

 訓練通りにすればいい。そう、ただ撃てばいいのだ。梨花はトカレフの7,62×25mm弾を立て続けに八発、タイフーンの顔面に撃ち込んだ。

 生物兵器と言えども所詮は脆い蛋白質で出来ている。三万気圧の圧力から撃ち出される弾丸の前には無力だ。

 「!?」

 梨花は自分の目を疑った。タイフーンの頭部の硬化した皮膚に命中した弾は全てはじかれた。頬や顎に当たった弾は、まるで芋虫のようにクネクネと皮膚から出てきて、床に落ちた。

 タイフーンは平然としている。梨花にはタイフーンが『それがどうした?』と言っているように思えた。

 「くっ!」

 梨花はマガジンを入れ替え、今度は目を狙って撃った。タイフーンとの距離は約十二メートル。この距離なら外さない。

 タイフーンは瞬きをした。次に瞼を開けた時には黒かった目は白く濁っていた。

 弾丸は目に命中した。しかし、防弾ガラスに当たったかのように弾かれ、壁の鉄板へと跳弾した。タイフーンは目を保護する為の半透明で強固な膜を持っている。

 こいつは化け物だ。拳銃ごときで相手をしてはいけない。梨花は咄嵯にそう判断したが、シャッタードアから逃げようにもタイフーンが進路を邪魔している。他に出口はないのか?

 シャッタードアの向かいにカードキー式のドアがある。緑のランプも点灯している。梨花はトカレフの銃口をタイフーンに向け、ゆっくりと後退した。

 タイフーンはのそりと梨花に歩み寄った。この余裕は満腹だからだろうか。それとも自分の強さを誇示しているつもりなのだろうか。

 梨花は後ろ手でカードキー式のドアの開閉ボタンを押した。ドシュ、という音がしてドアがスライドする。

 その時、獲物が逃げようとしている事を知ったのか、タイフーンが咆哮を上げて突撃して来た。梨花は開いたドアの間に身を踊らせ、開閉ボタンを連打した。

 ドアが仕舞った瞬間、ズドンという轟音がして辺りが揺れた。それは二度、三度、四度と続き、やがて静かになった。

 梨花は崩れるように倒れた。気が抜けたのだろうかと思ったが、床に血溜まりが出来ている。自分の血だ。出血が酷くて気を失いかけていたのだ。

 ここはどこだろう? どこかに通じてる通路である事は違いないが、身体が思うように動かない。梨花は震える手で万能麻酔薬の入っだプラスチックケースを取り出し、注射針をセットして自分の首に打った。

 脇を触ってみた。作業着はパックリと裂け、その下の皮膚も同じようになっている。軟骨が見えている。鼓動と同調して暖かい血がドクッドクッと吹き出ている。

 起き上がる事も叶わない事が分かった。身体が冷えてゆく。このまま死ぬのだろうか。でも薬のお陰で何も感じない。

 誰かが近付いている。それは分かったが、もう確かめようとも思わない。

 人影が自分の上に落ちた。誰かが自分を見下ろしている。梨花は『誰?』と言おうとして口を動かしたが、意識は急速に深い闇に呑まれていった。



続く

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