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Nobuyuki Takezawa

Author:Nobuyuki Takezawa
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※プレビュー画像はかなり美化しております。こんなに若くありませんしm(_ _)m でも、カラオケ好きなのでマイクを持たせました※

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【DD1】 木場誠二 今村夏美

 大阪府南部を横切るように通る国道170号線を、一台の車が走っていた。平日の正午前だから行き交う車の数は少ない。運転している木場誠二は、まるで高速を飛ばしているようだなと思った。

 スピードメーターを見た。制限速度を15キロほどオーバーしている。こんなところでねずみ取りにでも引っかかったら何をしに来たのか分からなくなる。木場はスピードを緩めて、ふと助手席を見た。

 助手席にはシートベルトをした若い女が座っている。女はキョトンとした顔で木場を見返した。

 「あ、あの、いい天気ですね。あはは…」

 と今村夏美は笑ってみせた。さっきから木場は何も言わず、ずっと黙って運転している。何か失礼な事でもしたのだろうかと考えていたが、思い当たる事と言えば一つしかない。

 「ああ」

 木場はぶっきらぼうにそう言うと前を向いた。確かに天気は良い。空は真っ青で、いわし雲が出ている。木場は『それがどうした』と言う代わりに車を道路脇に寄せて停め、八ザードをつけた。そして後続車が来てないのを確認してドアを開け、外に出た。

 夏美は木場が車を停めた理由が分からず少し狼狽えたが、木場が煙草を吸い始めたので自分も外に出た。

 気温は低く、肌寒い。でも空気は澄んでいて、夏美は深呼吸をした。

 「なんか、怒ってます…?」

 夏美は木場の顔色を窺いつつ訊いた。木場は吸い終えた煙草を携帯用の灰皿にねじ込んで夏美を見た。

 紺色のひらひらのスカートにピンクのセーターを着ている。靴は白のスニーカーだ。髪の毛はソバージュと言うのだろうか、パーマをかけて一部を脱色している。全体的にやぼったいと言うか、そんな感じだ。

 「この先の道を右折したら私鉄の駅に出る」

 木場は夏美をじっと見つめて言った。

 「はあ、そうですか…」

 夏美も木場を見つめて言った。彼の言わんとする事は分かっている。お前だけ引き返せ、だ。

 「あ、そうだ。どこかでお弁当でも買いません?」

 と夏美はとぼけた。

 「レーションは用意してある」

 木場はドスのきいた声で言った。

 「レーション?」

 「携帯用の食料の事だ」

 「それ、美味しいんですか?」

 木場は無邪気な夏美の言葉に呆れた。万が一の事を考えている自分がバカみたいに思える。

 ここは日本だ。個人で銃が買えるアメリカとは違う。くたびれるぐらいの平和で腐ってさえいる国だ。そう心配する事もないはずなのだ。

 と思うのだが、このこみ上げてくる不安はなんなのだろう。それは経験上、素直に従わないといけないシグナルだ。

 木場が夏美と知り合ったのは、今週始めの月曜日の事だった。ロサンゼルスでイスラム過激派組織が起こしたテロを取材し、懇意にしてくれている東京の出版社に寄った時だった。その際に、某有名作家の出版記念パーティーがあり、何故か誘われて出席した。その作家とは面識はなかったが、カーサが起こした一連の事件をレポートした木場の事は知っていて握手を求めてきた。

 『今や情報こそが力ですよ』とその年輩の作家は木場に言い、励ました。木場は同感だと告げたが、本当はそうは思えなかった。どこで誰が何をしているか、それが分かれば危機は回避可能だ。しかし、いつもそうなるとは言えないのだ。

 パーティは立食形式になっていた。出席者はテーブルに盛られた料理を口に運び、談笑していた。式が始まってから司会者や作家がスピーチをしたが、それ以降は各々が勝手に振る舞っていた。

 そんな中、一人ポツネンと壁際に立っている女が居た。料理をのせた小皿を手に持ってぼんやりしている。それが今村夏美だった。木場は地味な女が居るなあと思っただけだった。

 それより、木場はロサンゼルスに行く前から進めていた調査が気になり、いつも持ち歩いているノートパソコンを開いた。ルポライター仲間から何か連絡が入っていないかとメールを開く。程なく、それは見つかった。

 『グレースケミカルージャパンの研究者用宿舎に投じられた予算は以下の通り。地下で巨大ロボットでも作っているのかしら? JB』

 木場はメールの最後に記されていた七桁の数字を見て『ほお…』と呟いた。敷地の広さや厳重な警備システムや、専用の道路や宿舎自体の建設費をさっ引いても余りある数字だ。木場は『ありがとう。何か分かり次第連絡する』と返信しておいた。

 「こんな所で仕事ですか?」

 と出版社の編集者が木場に声をかけた。にこやかに酒を勧める編集者に応じて立ち上がる。いくら取材をしてもそれが記事や本にならないと干上がる。木場は気が乗らないのを隠しつつ、編集者が紹介する人達に挨拶を繰り返した。

 この時、何か忘れていると感じていた。それを思い出しそうになった時、編集者が今村夏美を紹介した。

 一年程前に、ライトノベルのコンテストで佳作に選ばれ、作家デビューしたらしい。今日は木場と同じで、たまたま打ち合わせで立ち寄って誘われたそうだ。

 「ども。はじめまして」

 と木場は努めて明るく言った。だが、夏美の言葉にギョッとしてしまった。

 「あの、グレースケミカルってカーサなんですか?」

 夏美は不思議そうな顔でそう言ったのだ。そして木場は何を忘れているのか理解した。ノートパソコンを開いたままにしていたのだ。

 木場は編集者に断って夏美をパーティ会場の隅に連れて行き、問い糾した。夏美は木場のノートパソコンの画面を見ただけではなく、いろんなファイルも開けて覗いていた事を白状した。

 「どうしてそんな事をする?」

 木場は夏美に詰め寄った。夏美は目をそらし、口を開いた。

 「すみません。つい、その…」

 「他には何を見た?」

 「え? あの…、大阪にある宿舎にウイルス研究の資材が運び込まれている可能があるとか、いろいろ…」

 木場は思わず『うー』と唸った。今この推測が漏れると非常にまずい事になる。奴等の情報収集能力は半端ではない。気付かれたらあっという間に手を打たれるだろう。木場はどうしたものかと考え込んだ。

 「あの、誰にも言いませんから」

 と夏美は言ったが、そう簡単には信用出来ない。その事を感じ取った夏美は一つの提案をした。

 「あたしに助手をやらせて下さい。週末に調査に行くんでしょ? 憧れていたんですよー、ルポライターに」

 にこにこしながらそう言う夏美を見て、木場は頭を抱えた。予定表まで見られている。これは脅しか? 俺は脅されているのか? そう思うと鳩尾の辺りから血の気が引き、目の前の女をぶん殴りたくなった。

 「いいですよね?」

 と夏美は念を押した。木場は『あ、ああ…』などと生返事をしてその場をしのいだ。何か言おうとすると手が出てしまいそうになる。しかし、このまま放ってはおけない。パーティがひけてから喫茶店で話し合い、結局一度だけと言う約束で調査に向かう事となった。

 調査と言っても宿舎の敷地内に忍び込んだりはしない。遠くから望遠カメラで出入りする車両や人間を撮影するだけだ。宿舎の建設中から何度かやっている事だが、これだけでも相当な事が判明するのだ。

 「どうします?」

 夏美が訊いた。木場は連なる低い山々を眺め、近くにある自動販売機へと歩いた。缶コーヒーを二つ買い、一つを夏美に投げ渡す。

 「レーションはクッキーみたいな味だ。千カロリーのが八つある。飲料水も持ってきているが、不安ならここでミネラルウォーターを買えばいい」

 「あの、まだあんまり説明してもらってないから、何が必要なのかは…」

 「そうだったな」

 木場は夏美から訊かれる事以外は口にしていない。そのせいで不安なのかと思い、状況説明をする事にした。

 「我々は今、グレースケミカルージャパン日本支社の海外研究員用宿舎に向かっている。目的は」

 「あはは」

 「何がおかしい?」

 「だって、軍人さんみたいですから」

 「自衛隊に三年在籍していたからな」

 「ヘー、そうなんですか」

 「あのさあ、俺の事はどうでもいいだろ」

 木場は少しムッとして言った。でも夏美はどことなく楽しそうだ。

 「あたし、木場さんにすっごい興味ありますよ」

 「俺はあんたに興味はない」

 「結婚してるんですか?」

 「おい、遊びに来たんじゃないんだぞ」

 「分かってますよ。でも、あんたって言い方は遠慮したいんですけど」

 「じゃあ何て呼べばいい?」

 「夏美って呼んで下さい」

 夏美はニコッと笑った。木場はヤレヤレと言ったふうに呆れ、肩をすくめた。

 「えー、今村君。とにかく、我々がやろうとしている事は危険を伴うんだ。気を引き締めてくれ」

 「はい。頑張ります」

 夏美は敬礼して言った。木場は夏美の仕種に関しては何も言うまいと思った。

 「で、グレースケミカルについてどれだけ知ってる?」

 「木場さんのノートパソコンをチラッと見ただけですから…。でも本当なんですか?」

 夏美の疑問はもっともであった。ハリウッドスターを起用したグレースケミカルの清涼飲料水のテレビCMを知らない者は居ないだろう。この数年で大手飲料メーカーに匹敵する営業成績をあげ人々を驚かせた。

 医療部門では、副作用の殆どない消炎鎮痛剤や、アレルギー体質を根本的に治療する薬なども開発している。今年に入ってからは癌の発生率を大幅に抑制する『万能癌予防ワクチン』を発表し、株価を急騰させている。

 グレースケミカルの世間の評価は高い。人類の救世主だと言う者さえ居る。そんな企業の前身があのカーサだと言われてもジョークにしか聞こえない。

 「五年前のカラカル事件は知ってるな?」

 木場は思い出すように言った。

 「ええ。カーサが秘密に作っていたウイルス兵器が漏れて、街中が汚染されて、アメリカ政府がミサイルで攻撃した…」

 「その後、街は徹底的に焼き払われ、社長や幹部連中は逮捕されて投獄。カーサは解体されて一件落着」

 「でも木場さんはサイレン島と南米ペルーに研究施設があるってスッパ抜いたんですよね」

 「あれは俺だけの手柄じゃない。協力してくれた者が何人か居るんだ」

 木場はカラカルシティで命を落とした者を思い浮かべた。また、最初にカーサの陰謀を知ったカラカルシティの特殊警察隊のメンバーの事も。彼らの命がけの活躍があればこそ、カーサの暗部が陽にさらされる事となったのである。

 「完全に息の根を止めたと思った。しかし、カーサの研究員の多くが行方不明になっていたんだ」

 「その人達がグレースケミカルを作ったんですか?」

 「いや、彼らは雇われただけだ。黒幕は合衆国政府だ」

 「は? でもミサイルまで撃って」

 「それは表向きの、つまり正義の表現に過ぎない。カーサが開発していたものが一番欲しかったのは政府なんだ」

 「はあ…」

 「サイレン島でも南米ペルーでも、記事が新聞に載った後に何故か主要研究施設が忽然と消えている。こんな事が出来るのは国ぐらいなもんだろ?」

 「でも戦争でウイルス兵器は使えないって、何かの本で読んだ事ありますよ。そんなものの為にそうまでしますか?」

 「ほう。よく知ってるな」

 「カーサの作ったウイルスは感染力が高すぎて敵だけに感染させるのは難しい、調整しようにも変異し易い性質があってダメだとか…」

 「ウイルスはな。おっと、こんな所でダベっていても時間が経つだけだ。行くぞ」

 木場はそう言うと車に乗り込んだ。夏美も貰った缶コーヒーをスカートのポケットに入れて助手席に戻った。

 制限時速を守りつつ、木場は車を走らせた。実際に現地に到着すれば分かる事だ。夏美にはこれからする事だけを簡単に告げた。

 木場は『ウイルスはな』の後に思わず『それはあくまで方法だ』と言いそうになった。カーサは人型の生物兵器を開発するのが目的だった。それらの研究資料は全てアメリカ政府が回収している。具体的な資料のないものを発表すればインチキ呼ばわりされ、カーサが引き起こした一連の事件さえも、もみ消されるかも知れなかったのだ。

 人型の生物兵器の外観はモンスターそのものだ。こんなものを真面目に取り扱うのは夕ブロイド紙ぐらいなものである。

 信じさせる為には証拠が要る。それがこれから向かう先にあれば良し、たとえ見つけられなくても不法建築の疑惑を抱かせられるだけの資料を揃えられればどうにかなる。木場は消えない不安を打ち消すかのようにそう自分に言い聞かせた。



 藪と灌木が密生する斜面を、取材道具を収めたバッグを抱えた木場がずんずんと進んで行く。こんな事になるのならスカートなんか穿いて来るんじゃなかった、と必死に木場の後を追う夏美は後悔した。

 車は宿舎に通じる私道の入り口のずっと手前に停めてある。そこから山中に踏み入り、宿舎まで全長五キロもある私道とほぼ平行に進んでいた。右も左も緑と茶色の木と草しかない。足元は軟らかくて時々くるぶしまで地面にめり込んだ。

 『普段着で来るように』と木場は夏美に言っていた。それは恐らく目立たないようにと言う意味だろうが、せめてジーンズを穿いて来いとか言って欲しかった。

 でも今更そんな事を言っても『嫌なら帰れ』と言われるだろう。そうなったら本当に帰ってしまいそうな自分が居て、そいつにだけは屈したくなかった。

 パーティ会場で、偶然椅子の上に置かれたつけっ放しのノートパソコンを見つけた。その時、どうしても覗きたくなった。なぜそう思ったのかは分からない。今でも不思議だった。

 開けたファイルを読んで驚いた。断片的な記述の仕方をしているのが多かったが、グレースケミカルとカーサの関係を示すものがいっぱいあったのだ。それに大阪府南部にあるという宿舎が何やら違法な事をしていると推測している記述もあった。

 その後、編集者に木場を紹介された。いつもの夏美だったら黙っているか、素直に謝るかの二つに一つのはずだった。ところが、口をついて出だのは意外な言葉だった。

 自分が何を言いたいのかを理解した時は身体が宙に浮いているような気分になった。自分はこの大男と交渉している。調査に同行させろと脅迫じみた事を言っていたのだ。

 夏美は木場の事を全然知らなかった。カーサの事は世間並みの知識があったが、木場が世界的に有名なルポライターだと分かったのは東京のマンションに帰り、ネットで検索してからだった。

 そしてとうとう大阪まで来て山の中をひいひい言いながら登ったり降りたりしている。こんな事をしていていいのだろうか、と何度も自問自答してしまう。

 夏美は対人恐怖症に罹っていると思っていた。人前に出ると顔が赤くなり、話が出来なくなってしまう。この症状は思春期を迎えた頃からひどくなったが、どうにか高校は卒業した。その後パソコンソフトの下請け企業の経理に就職したけど、人付き合いが上手く行かず、ずっと悩んでいた。

 夏美は自室にこもって趣味の小説を書いて過ごすのが唯一の慰めとなっていった。特に期待もせずに応募した作品が佳作に選ばれ、プロデビューの話も持ち上がり、思い切ってOLを辞め、東京にマンションも借りた。

 でも人前に出るのが恐いのは治らなかった。大先輩の作家のパーティに出席したのもそんな自分を少しでも良くしたいと思ったからだった。

 夏美は、木場のような男が一番苦手だと思っていた。身体が大きいし、顔つきも恐い。声も低く、まるでヤクザのように話す。それなのに思った事がスラスラと言えるのだ。これは一体どうした事なのか?

 自分の中に別の自分が居る。それが夏美がたどり着いた結果だった。木場と話す時、気さくで明るい自分が現れる。他にも知らない自分が出番を待っている、そんな気がするのだ。

 夏美にとって、グレースケミカルの宿舎の調査は、興味はあるけど二の次だった。木場について行かなければ、と言う思いだけで動いていた。

 しかし、どうして木場なんだろう。夏美には一週間前に見た夢と何か関係ありそうに思えて仕方がなかった。

 地獄のような場所で亡者が蠢いていた。はっきりとは覚えていないが、とにかく暗くて怖ろしい所だった。

 やがて一人の少女が現れる。少女の顔や姿は思い出せない。彼女は亡者の群に呑まれようしていた。

 そこに息を切らした男がやって来る。夢はたったこれだけだったが、妙に生々しかった。性の欲求が高まっている、とフロイトなら分析するのだろう。でもきっと何か意味があるのだ、と夏美は感じていた。

 「頭を下げろ」

 木場が振り向かずに言った。夏美はビクッとして身を屈めた。

 なだらかな丘の頂点近くに、枝が切り払われている場所があった。木場はバッグから望遠カメラを取り出して寝そべった。夏美も同じように腹這いになる。

 夏美は木場がカメラを向けた方向に顔を向けて『ほえ~』と間の抜けた声を出した。数百メートル先に小さな盆地があり、そこにお洒落な建物がそびえているのだ。七階建てで、まるでレンガ色のマンションのようだった。

 敷地の周囲はフェンスに囲まれている。宿舎以外には駐車場やテニスコートや噴水、それに給水棟や発電施設のような建物も見える。

 フェンスは三重になっていて、高さは十メートル以上もありそうだ。目に付くところには黄色い看板が掛かっていて『高圧電流注意』と英語と日本語で記されていた。

 そのフェンスに挟まれるようにこれまた黄色いゲートがある。警備員の詰め所は分厚いコンクリートで出来ている。ここから見える窓ははめ殺しになっているようだ。

 「凄いですねえ。…でも、なんてこんな所に作る必要があるんですか?」

 夏美は宿舎を見ながら言った。

 「名目上は、研究者に静かな環境でリフレッシュして欲しいから、だそうだ」

 「確かに静かですけど、不便ですよね、ここ」

 「それは言えてるな。電気も水道もひいてないし」

 「へ? どうやって生活してるんです?」

 「電気は燃料電池式の発電施設でまかなってる。液化水素の巨大なタンクが地下に幾つもある。水は井戸を掘ってるな。飲料水は全部ミネラルウォーターだ。週に四回も物資の搬入をやってる」

 「それって、不経済なんじゃ…?」

 「連中にとっちゃあ大したことはないんだろ。それより、頻繁に大型トラックが入れる事の方が重要だ」

 「はあ」

 「つまりだな、得体の知れないものを運び入れるにはいいカモフラージュになるって事だよ」

 「なるほどー」

 と夏美。同時に木場の行動力に感心した。身体が触れる程近くにいるこの大男からは熱気のようなものを感じる。仕事中の大人の男っていいなあ、と思った夏美はびっくりした。

 あたしはこの人が好きなのかしら? おお? だから思った事が言えるとか…?

 夏美が自分の気持ちはどうなのか考えていた時、木場が望遠カメラのシャッターを切った。その音で我に返り、ゲートの方を見た。

 いつの間にか一台のワゴン車が停車している。真っ黒な背広を来た白人の男がワゴン車から降り、木場は盛んにシャッターを切った。

 他にも作業服姿の人間が四人出てきた。全員白人で、なぜかゴルフバッグを担いでいる。

 「これからゴルフですかねえ?」

 と夏美は呑気そうに言って木場をチラッと見た。木場は険しい表情を浮かべている。

 「妙だな…」

 「何がですか?」

 「宿舎に人影が無い…。それに、警備員の様子が変だ」

 木場はカメラのファインダーを覗きながら言った。ゲート付近の様子はよく見える。

 警備員は日本人のようだ。慌てているようでもあり、何かを訴えているようでもある。盛んに手を動かして何か言っている。ワゴン車から降りてきた男達は用心深く辺りを窺っている。

 そしてすぐにゲートの上部にある黄色の回転ランプが点灯し、ゲートが横にスライドして行った。

 「こりゃ、何かあったな…」

 と木場が呟いた時、夏美はゾクッとした。背後で物音がしたように思ったのだ。木場も何かを感じたらしく、カメラを降ろして立ち上がろうとした。

 バチッバチッ、という音がして青白い閃光が走った。次に木場の『うっ』という呻き声がした。夏美は急いで仰向けになり、後ろを見た。

 奇怪な服装をした男が二人立っている。緑色とカーキ色の迷彩服を着ていて、丸いヘルメットを被っている。昆虫の目に似た大きなサングラスのようなものをかけていて、長い棒を持っていた。

 「ひ、ひいいい!」

 夏美は悲鳴をあげた。木場はうつ伏せになって動かない。背中に焦げた痕がある。死んだのだろうか。自分も殺されるのだろうか、と思うと身体がブルブルと震える。

 一人の男が持っていた棒を振り下ろした。棒の先は二股になっていてハナバチと火花が出ている。夏美はかすれた声で『はひっ、はひっ』と叫びつつ、両手を上げてお尻だけで後ずさった。

 もう一人の男が、棒を振り落とした男を片手で制止した。そしてサングラスを外した。

 「フー、アー、ユー?」

 男はゆっくりとそう言った。まだ若い白人で、目は青く、端正な顔立ちをしている。

 しかし、夏美は『あうあう』と呻くばかりだった。頼るべき木場は動かない。どうしたらいい? どうしたらいい? と何度も頭の中で繰り返し続けた。


続く

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