宇宙輸送艦恩地丸の受難 Ⅲ
SF長編小説 - 2016年07月25日 (月)

【宇宙輸送艦恩地丸の受難 Ⅲ・本文抜粋】
長居は無用だ、とコウに言おうとした。その時、B-BOXに衝撃が走り、上下の感覚が分からなくなった。どうやら宙を舞ったらしい。
「な、なんだ?!」
織田はB-BOXの体勢を立て直しながら言った。
「二機のF-BOXに襲撃されました」
とコウ。織田は全てのモニターに周囲の様子を映し出した。するとF-BOXが二機、見えた。
それは高橋少佐が兵器工場で見たという高機動型のF-BOXに似ていた。全高は八メートルぐらいか。ライフルのような武器を持っている。地上戦専用機のF-BOXなのに肩部と腰部に反動推進スラスターのような装置があり、空中に浮かんでいる。塗装はされていないらしく、銀色の合金がむき出しになっている。プラズマ電池がエネルギー源だとすると戦闘継続時間はそんなに無い筈だ。
「損傷は?」
と織田。
「プラズマ弾を打ち込まれたようです。外部装甲の一部が破損、左腕の機能が78%低下」
「回避行動に移れ」
「了解!」
コウはキリッとしたいい声で答えた。そして敵F-BOXの動きを観察しつつ、B-BOXを高速移動させたりジャンプさせたりしてF-BOXのプラズマ弾による攻撃を避け始めた。
相手は地上戦用に特化した局地制圧用のF-BOXだ。偵察、対人戦闘が主な任務のB-BOXが戦闘力で叶う相手ではない。しかし、迷彩を掛ければどうにかなるかと思ったが、亜空間スキャンを使っているようで無意味だと分かった。
それにしてもF-BOXに亜空間スキャン装置を積むとは凄い技術だ。空間をずらして、別の次元から物を見るのが亜空間スキャンだ。出力もかなり必要だし、装置そのものを小型化しなければならない。コストも莫大なものになる。また、スキャン出来る距離も狭い。でも一度捉えられたらB-BOXと言えども丸裸同然だ。
B-BOXはプラズマ兵器や光学兵器に結構耐性がある。もし実弾を使われていたら今頃バラバラにされていただろう。
織田が反撃を考えた時、右横のモニターに三島艦長の顔が映し出された。
『こちら三島だ! 銀河同盟からBOX同士の戦闘が行われていると連絡が入った。状況を説明しろ!』
と三島艦長は緊迫した表情で言った。織田は咄嗟に今まで集めたデータを恩地丸に転送し、グラスファイバー製の有線を切り離した。
「こちら織田、二機のF-BOXと交戦中。相手の指示系統はどうなっていますか?」
と通常の回線で報告しつつ、織田は次第に冷静になって行く自分を感じていた。こんな事は何度も経験している。でも今回はいつもと何か違うようだ。
『ブルーゼロも銀河同盟も指示は出していない。どうやら最近出来た重要施設用の自動防衛機構らしい』
「そうですか…。それで高機動型の無人F-BOXを開発していたんですね。どこに敵が侵入しても素早く迎撃出来るように」
『何を喋っている? 逃げられるのか?』
「データは届きましたか?」
『は? ああ、届いている』
「有線の回収は?」
『え? ああ、それもやった。こらっ! 早く戻って来い!』
「それがどうもねえ…」
コウが操るB-BOXは二機のF-BOXの攻撃を懸命に避けている。が、相手はこちらを破壊する気がないように思える。プラズマ弾が命中しているのは手足だけだ。捕まえて、何をしていたか聞き出すつもりらしい。
「コウ、逃げ切れると思うか?」
と織田はコウに訊いた。
「今からそれを試します」
コウはB-BOXの側面の収納スペースからプラズマライフルを出して一機のF-BOXを撃った。プラズマ弾は胴体に命中した。が、殆ど損傷を受けていないように見える。
次に、コウはグレネード弾で攻撃した。これは効いたようだ。空中に漂うように位置していたF-BOXが降りてきた。すかさず対F-BOX用電磁式付着地雷を取り出して、降りてきたF-BOXに向かってジャンプした。
が、もう一機のF-BOXが高出力レーザー砲か何かを使ったらしく、B-BOXの両腕が切断されてしまった。対BOX用付着地雷はこの建物の下に落ちて行き、爆発してしまった。
宇宙輸送艦恩地丸の受難 Ⅲ
『BOX』それはパワードスーツの規格だ。
『B』『F』『G』『S』と状況に応じて使い分ける。
関係無いけど、織田少尉がお気に入りです。
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