蒼ざめる時
SF中編小説 - 2016年07月18日 (月)

【蒼ざめる時・本文抜粋】
男は細身で長身だ。緑色の米軍コートを着ていて、どういう訳かその下は裸だ。ズボンは履いている。靴は頑丈そうな革靴だ。
…凄い筋肉だ。でも研ぎ澄まされたような筋肉を見せるために 米軍コートを着ているわけではなさそうだ。人に見られるのを嫌っているような仕草を時折する。髪はぼさぼさで、肌の色は茶色。目の色も茶色だ。煙草のキツイ匂いがする。俺がプロファイルした人物像とはかけ離れている。
「山上幸一だけど?」
と俺。相手は年上に見えるけど、敬語を使う気になれない。
「神田巡だ」
「かんだ、じゅん。なんの用だ?」
「どうして分かった?」
「勘」
「勘で分かるものか。あそこにあれがある証拠を握っただろ?」
男は、神田は真っ赤に燃えているように赤く見える。まだやる気だ。幸いに、周囲の人達と俺には色は付いていない。
神田の首には、赤い輪も見える。こいつがあの爆弾騒ぎの犯人だ。俺は神田を観察した。既に何人も殺しているようだ。
「どうしてそう人を殺そうとする?」
俺は小声で言った。
「練習だ」
「練習?」
「どうすれば大規模な爆発を起こせるか、タイマーは正確か、とかだ」
「爆弾が作れるのか」
「お前は?」
「秘密」
「調子ぶっこいてるとこの店吹っ飛ばす!」
神田の赤色が濃くなり、店の人間がみんな一瞬で真っ青になった。ガラス窓に映った俺も青い。
「…人殺しと、殺される人間が分かる」
俺はぼそっと言った。が、いつでも動けるよう微妙に体勢を整える。
「ほう」
「あの場所で、一点を中心に人が青く見えた。俺も。だから原因を取り除いた。お陰でちょっと有名になった」
「爆弾が直接分かるわけじゃないんだな」
「どうやって爆弾を作る?」
「物に触って念じるだけだ。規模は爆竹からダイナマイト十本分ぐらいかな。材料が良ければもっと強い爆弾が作れる事が分かった」
「例えば?」
「砂糖とかグリセリンだな。何故か甘い物はよく爆発する」
「他には?」
「爆弾そのものだ。自分で作ったのは駄目だが、ダイナマイトなんかだったら二、三十倍の威力に改造出来る。…お前の能力は人殺しと、これから殺される奴が分かるだけか?」
「ああ」
「俺の邪魔をする気か?」
「…俺の能力は未来予知でもある。その未来は変えられるんだ」
「ほう」
「俺はお前のような奴が嫌いだ。多くの人の命を奪い、ビルごと爆破しようなんて奴はな」
「じゃあ敵同士だな」
「そうなるな」
「殺す」
「無理だ。俺もこの店の誰も死なない」
「じゃあ試してみよう」
神田はテーブルに両手を付いた。するとテーブルからミミズのようなものが無数に出てきた。それらは生き物のように蠢いている。これが神田の作る爆弾なのだろう。
俺は立ち上がりつつ、テーブルを蹴って神田ごと押し倒した。そして、神田の両手をテーブルの下に回させ、そこで持ってきたプラスチックの拘束具で止めた。これで神田は動けない。
「き、貴様ーっ!」
神田が絶叫した。テーブルが爆発すれば神田が真っ先に死ぬ。
店内は騒然となった。そしてスマホや携帯でこの様子を撮影しているのがいっぱい出て来た。動画サイトにアップロードするつもりだろう。マスコミにも売れる。店の人間は店内の固定電話で警察を呼んでいる。神田は警察官でも躊躇無く皆殺しにするはずだ。
蒼ざめる時
『神は人間を弱く作った』by物知りな巨人の言葉。
大きな力を得た時、人は己の存在理由を問われる…。

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