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Nobuyuki Takezawa

Author:Nobuyuki Takezawa
電子書籍のトビラへようこそ!

当ブログでは、私の発行済みの電子書籍を紹介をしております。また、楽しんで頂けるようエンターテインメントブログを目指しています。ごゆっくりお楽しみ下さい。

※プレビュー画像はかなり美化しております。こんなに若くありませんしm(_ _)m でも、カラオケ好きなのでマイクを持たせました※

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電子書籍のトビラとは?

 武澤です。『電子書籍のトビラ』の紹介をします。

【発行済みの電子書籍の紹介】

 既に40冊以上の電子書籍を発行しております。 それらをカテゴリ毎に分けて『表紙』『本文の抜粋、または冒頭文』等を紹介しております。

  『SF短編小説』

  『SF中編小説』

  『SF長編小説』


 SF、となっておりますが、そうでない小説も含まれています。

【連載小説】

 現在は『ヌコ星人の侵略』『CODE:DD Act/0』を連載中です。

【キャンペーン情報】

 主に無料キャンペーンの情報を掲載します。お見逃し無く。

【漫画の部屋】

 『レッツ!声優』と『コミPo!で漫画』をこのカテゴリに移動させました。

【作品解説とレビュー】

 出来る限り本の中で解説してますが、その解説を前提に書いている本もあるので、ここでまとめて解説する事にしました。

 また、レビューも本を選ぶ際に参考になるかと考え、掲載します。

【思うこと】

 エッセイみたいな感じです。分からない事、疑問に思った事を中心に綴って行きたいと思います。

【動画の部屋】

 「ブログって、一つのテーマに絞ってやった方がええで」と知人に言われました。

 でも「これだけは!」という動画がありまして、みなさんと分かち合いたい気持ちが勝ってしまったのです。

 お時間があれば観てね\(^o^)/

 ※動画再生の仕様上、FC2動画の会員でない方は十分の一ぐらいの再生で終わります。全て視聴される場合は(ラジオドラマも含め)、再生モニターの左上の『動画の題名部分』をクリック、またはタッチして下さい。FC2動画に移行します。完全無料で視聴回数に制限はありません※

【Kindle本の作り方】

 『自作の小説をKindle本にしたい』方や『Kindle本を発行したい』方向けに簡略化して解説しております。

【バナーで紹介】

 私の作品を一覧出来るよう、バナーを並べました。ご活用下さい。横書き版(リフロー)と縦書き版(固定レイアウト)の二種類があります。

【オススメあれこれ】

 これは面白い! と思ったKindle本、漫画、アニメをバナー付きで紹介します。

【中高生の時に書いた小説】

 こんなのを書いていたとはビックリです。連載の形式で発表して行きます。

【怖い話】

 怖い話です。ノンフィクションです。

【ラジオドラマ】

 有線放送(現USENブロードネットワーク)で放送されたラジオドラマ、晩餐会シリーズです。勿論SFですが、結構感動したりします。特にワイルドレイズは傑作だと自負しております。

※ブログ上の小説文章は、読みやすくする為に段落毎(または適度に)に改行してあります※
※電子書籍として販売している本は行間調整が出来ますので改行はしておりません※


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入院しておりました…。

不摂生がたたり、とうとう歩けなくなってしまって救急車で病院に行きました。血糖値が900を越えていました(普通は100ぐらい)。

そのまま入院して糖尿病の治療を始めたらインフルエンザに罹ってしまいました。死ぬかと思いました。

どうにか動けるようになりましたが、まだ執筆は当分無理なようです。

元気のある時にぼちぼち書きます。長い目で見てやって頂ければ有り難いです。

m(._.)m

CODE

【2048/06/10/DD】 吉岡梨花 ?

 生ビールは美味い。特に今日は蒸し暑く、冷えたビールをあおると強烈に美味い。

 「ぷはー!」

 俺は居酒屋で一人生中を堪能していた。昼間は建築現場で肉体労働に従事しているからしこたま汗をかいているし。男の人生の意味は身体を使って働いて、生ビールを飲む事だと心底思う。

 ビールの肴に枝豆と焼き鳥を注文しようとした時、店内の照明が一旦消え、すぐに元に戻った。俺は嫌な予感がしたが、無視して女性の店員を呼んだ。

 「最近よくありますねえ」

 と女性の店員が言った。『そうだね』と言おうとしてその女性の店員の顔を見て仰天した。

 「よよ、吉岡3等陸佐! 何やってんですか!」

 「しっ! 声が大きいわよ」

 「はあ…。で、こんな所で何を?」

 「アルバイト」

 「非常勤になったんですか?」

 「立場が」

 「ひょっとして、俺の監視っすか?」

 「担当しているのは六人よ」

 「と言う事は…、部下は最低でも十八人ですね」

 「んー、後方通信とか技術屋さんがもう三人」

 「一個中隊も…」

 「理由は訊かないでね」

 と吉岡3等陸佐、アメリカの階級では少佐となる、が言った。彼女は30年前に起こったグレースケミカル事件の際に、潜入捜査を行い、塩の柱のような光の中から『結晶』を持ち帰った伝説の人だ。その功績を讃えられ、表には出ない『特殊捜査部』の部長に昇進した。

 4年前、陸自の戦車中隊に所属していた俺をスカウトしたのが吉岡3等陸佐だ。なんでも『適性がある』とかの理由だった。今思えば、知っていれば絶対に断っていたと思う。

 それにしても30年前に28歳だったから、今は58歳だ。が、その美貌、容姿はもとより、サバイバル能力、戦闘力等々、とても58歳とは思えない。あだ名、いやニックネームは『不死身のリカちゃん』である。直接言うと殺されるという噂もある。

 結晶は『マリアの贈り物』という別名がある。何故こう呼ばれるのか、過去3回の任務でその謎は解けた。『夢洩れ』通称ナイトメア現象は本人の宗教観が強く影響する。多分、マリアという名の少女はキリスト教徒であり、グレースケミカル事件で彼女の観念が具現化したものなのだろう。吉岡3等陸佐はその影響下にあり、何らかの生体特性を得たのではないだろうか。俺のような下っ端は知る由もないが。

 その吉岡3等陸佐が俺を含めて六人も監視している。しかも直接接触してきた…。一瞬、逃げだそうかな、と思った。

 携帯が鳴った。俺は携帯を取り出した。

 『CODE DD EMERGENCY 14 2』

 と機械的な声が聞こえ、すぐに切れた。

 「吉岡3陸佐、コー」

 まで言ったら吉岡さんに手で口を塞がれた。なんか嬉しい。

 「梨花ちゃん、って呼んで」

 「はあ?」

 「呼びなさい」

 「了解! 梨花ちゃん」

 「なーに?」

 吉岡3等陸佐は、もとい、梨花ちゃんはニコニコしている。変な人だ。

 「コードDDが発令されました。14の2です」

 と俺。次第に緊張しているのを自覚した。

 「14の2って、女の子だったわね。行くわよ」

 「了解! あ、でも俺、ビール飲んでます」

 「夢電所に着いたら水を5リットル飲みなさい」

 と梨花ちゃんは言い、着替える為に厨房に入った。…水を5リットルって、死ぬかも知れない分量だ。死なないとは思うが。その前にギブアップしよう。

 夢電所とは、人間の潜在意識から直接電気エネルギーを採取して、一般家庭や工場で使えるようにする所だ。特に夢を見ている時が効率が上がるそうだ。

 これもグレースケミカル事件で発覚した、と言うより『夢洩れ』現象を究明して得られた技術だ。そして世界のエネルギー情勢がてんてこ舞いとなった。既に火力、水力発電所は無くなり、原子力発電所は地中深くに埋められてしまった。事実上、世界の電力は夢電所で得られている。

 完全無公害で無尽蔵のエネルギー源なのだが、人間の深層意識から電力を得る為には『人間そのもの』が必要となる。夢電所が稼働する際に人権問題とされたが、人類の存亡の前には人権など吹き飛んだらしい。現在は、トラウマや各宗教と無関係な8歳から10歳の子供が選ばれ、4年間眠りに就かされ電力供給を行う。勿論、役目を終えたら一生困らない額の金銭と境遇が与えられる。

 CODE:DDとは、『ドリーム・ダイバー』の出動要請の事だ。

 世間的には、夢電所で事故は一切起こっていないと説明されている。しかし、電力供給源が如何に無垢で純真な子供であっても夢洩れは起こる。30年前のグレースケミカル事件では、時空のループ現象まで発生したらしい。

 俺の仕事は、夢漏れを起こして現実を変容させている子供の夢に潜り、目覚めさせる事だ。

 「行くわよ、木場ちゃん」

 とライダースーツを着て、厨房から出て来た梨花ちゃんが言った。なんともセクシーでカッコいい。

 「了解!」

 俺は立ち上がって言った。そう、俺はドリーム・ダイバー、木場夏夫だ。



終わり ご愛読ありがとうございます。

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【DD16】

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【DD16】 木場誠二 今村夏美 アラン・ギア 田中真治

 オーストラリアのシドニーにあるオペラハウスのすぐ近くで、木場は石段に腰掛けていた。荷物はいつものアタッシュケース一つだけだ。ケースの中にはノートパソコンと着替えと、後はちょっとした日用品が入ってる。

 日本人観光客が多く、新婚さんにカメラを頼まれたりする。木場はその度に快く引き受ける振りをしていた。

 でもさすがに二時間も佇んでいると地元の怪しげな連中が日本語で『いいものあるよ。買う?』とか言ってくる。路地に連れ込んでボコボコにしてやろうかと思うが『ノー、サンキュー』と凄みのある声で追い返した。

 あまりに暇なのでつい四ヶ月前の事を思い出してしまう。あの時、マリアは『逃げて…』と言った。木場はマリアを連れて行こうとしたが、目に見えない強い力で跳ね飛ばされた。

 マリアが光に包まれ、床が崩れ出した。木場は危険を感じ、夏美と共にエレベーターで地上に逃れた。

 施設の電気が一斉に消えた。そして地面が陥没し、宿舎も他の建物も地面の下に飲み込まれた。木場は梨花を背負い、夏美と一緒にゲートを手で開けて外に出た。

 強烈な白い光が地面の下から、まるで巨大なレーザー光線のように真上に放射された。それは二、三分ぐらい続いた。

 空から白い粒が降ってきた。光が収まり、木場は今出来た穴の縁に立った。大きな穴の底も白い粒で一杯だった。後にそれは微細な塩の結晶が集まって出来たものだと分かった。

 近畿地方全域でその光の柱を目撃した人が続出し、警察や自衛隊まで出動して大変な騒ぎになった。そんな中で木場は梨花を私道に置き去りにして、夏美と車に乗って大阪に向かった。

 夏美は梨花を放置した事を責めたが、連日の報道内容を知って納得してくれた。ギアは勿論だが、自衛隊員が潜入捜査をしていた事はー切出ていなかった。それと、行方不明者リストの中に田中真治の名前があった。田中はギアに消されたと木場は推測していた。

 当初、グレースケミカルもアメリカ政府もとぼけていた。と言うより被害者の立場を取っていた。しかし、日本政府はグレースケミカル日本支社の強制捜査を行い、アメリカ政府の調査員の入国を拒否した。これに対してアメリカは非難の声明を出したが、それ以来沈黙している。

 つまり、吉岡梨花の報告があったわけだ。あの現象は解明不能でも、グレースケミカルが日本国内で生物兵器を製造していたのは事実だ。

 あの施設で体験した事は文章にしてあるが、具体的な証拠が皆無なので発表は無理だろう。特にクートア博士とマリアの話は自分で読んでも笑ってしまうぐらいに荒唐無稽だ。

 時間の繰り返しも悪夢や思念の具現化も奇々怪々であるが、マリアはどうして光に包まれ、施設全てが塩になってしまったのだろうか。あそこで生じた異常なエネルギーや具現化物質を元の状態に戻す為にああなった、と推測は出来るが本当のところは分からない。

 ただ、塩の結晶構造が特異で薬理効果がある事が判明していた。脳を活性化させ、免疫力を高める作用があるらしい。ニトログリセリンのような反応もあるし、他にも何やら怪しげな効果があるようだが国で厳重に管理していて調査するのは困難だった。

 「木場さーん!」

 と夏美の声がした。声のした方を見ると、馬鹿でかい犬に引っ張られた夏美が走って来ていた。夏美は青色のワンピースを着て白いツバの広い帽子を被つている。

 「遅い」

 木場は、はあはあと息の荒い夏美に言った。

 「検疫官の人と話が通じなくて」

 「だから英語ぐらい喋れるようになれと言っただろ?」

 「だってー。ね、ジョン」

 何が『ね』なのか、と木場は思った。夏美にジョンと呼ばれたシェパードと何かの雑種らしい犬が尻尾を振ってバウッと吠えた。この犬は二度目にあの場所の調査に行った時、どこからともなくひょっこり現れのだ。夏美は一目見て『ジョンだ!』と言った。彼女が一緒に行動したというヒドゥンDタイプに似ているらしい。

 「行くぞ」

 木場は近くの駐車場に向かって早足で歩き出した。そこには現地用の足にと廃車寸前の中古車を調達していた。本当ならパートナーである夏美がやらなければならない仕事である。なのに犬の検疫期間に合わせて取材の日取りを決めて欲しいとか、待ち合わせはオペラハウスの前がいいとか、ワガママの言い放題だ。それを許している自分もどうかしているが。

 「木場さーん! グレースケミカルのオーストラリア支社の近くでー、脱走したデストロソルジャーが村を作っているって本当ですかー!」

 と夏美が木場を追い掛けながら言った。木場は唖然として振り向いた。

 「お前は何を大声で…。もう帰れ」

 「またまたー。冗談キツイですよお」

 夏美がそう言った時、何を思ったのか犬が『わおん!』と吠え、いきなり違う方向に走り出した。夏美は引きずられて『わっ!』と声を上げて転んだ。

 木場は呆れて溜息を吐いた。でも、いろんな意味で退屈だけはしないで済みそうだった。



 「ボス、行きましたよ」

 新聞に顔を埋めた田中が言った。田中はグリーンのスーツを着こなしていてサングラスを掛けている。突き出ていた腹も引っ込み、足を組み替える様も自然だ。

 田中の隣で同じように新聞を読んでいる振りをしていたギアは木場と夏美が去ったのを確認した。

 夏美が連れていた犬と目が合い、吠えられた時は驚いた。まるで知り合いのような顔をしたな、とギアは感じていた。

 「ボス、雇った連中が木場に接触します」

 と田中が日本語訛りのない、完璧な英語で言った。

 「見届ける必要はない。例の場所へ先回りする」

 ギアは事前に地元のチンピラに金を渡して因縁をふっかけるように頼んであった。木場に隙があれば取材道具が入ったアタッシュケースを奪って来いと言っている。が、さっきまでの様子だと失敗して返り討ちにあうのが関の山だ。

 ギアは大通りの道路脇に停めてあるベンツに向かった。田中はギアの後ろを普通に歩いているが、神経を集中してこの場の動きを捉えている。

 それにしてもあの塩は凄い。たった一粒で人間の能力を何段階も上げてしまう。持ち帰った分は研究中だが、脳細胞を増殖させ、細胞の老化を防ぐ働きがあるらしい。適量を摂取すれば人間を越えて別種の生物になる可能性もあるとも聞いた。日本政府が戦争も辞さない覚悟でアメリカ政府の介入を拒絶しているのは当然である。

 あの塩の合成は不可能らしい。ナトリウム以外に未知の物質が合まれていて、それは地球上のものではない。だが、合成出来なければ作ればいいのだ。

 グレースケミカル・オーストラリア支社は今や完全にCIAの管轄下にある。データは揃っている。マリア・クートアは一人ではないのだ。

 「ところで、ボス」

 田中が言った。こいつも塩をなめたお陰で有能な工作員になったものである。おまけに貴重な研究材料だ。上層部から『丁寧に扱え』と命令されているのが少し癪にさわる。

 「何だ?」

 「今回の仕事は木場にニセの情報を与える事ですよね?」

 「ああ」

 「結構簡単だと思います」

 「まあな」

 「早めに終えて、余った時間でサーフィンしましょう」

 「は?」

 「青い雄大な海にサーフボードを浮かべて波に乗るんです。それで、浜辺で美女を眺めてビールを飲むんですよ。あはは」

 「はー…」

 ギアの脳裏に自分がサーフィンをしている光景が広がった。ギアはやっぱりこの仕事を最後に引退しようと思った。



続く

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【DD15】

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【DD15】 木場誠二 今村夏美 アラン・ギア 田中真治

 木場は梨花の顔に浮き出たピンク色の筋を思い出していた。

 解剖されたアライグマの内蔵の質感と似ている。クートア博士が言っていた具現化による傷の修復だろうか。とすると、彼女も何らかの役割があり、それを遂行しようとしていた事になる。

 致命傷以外は修復可能だとクートア博士は説明していたから、夏美には命に別状はないと言った。しかし、それは自分が田中の妄想の産物だと認める事になる。

 自分はあのアライグマやここの物品みたいにその場で具現化したのではなく、この世に一人の人間として存在させる為に過去を変えて造られたとしてもいい気分はしない。と言うか、じゃあ両親もそうなのか? 祖父、曾祖父と辿って行けば、二十万年前にアフリカに出現したという最初の人間、エヴァにも影響している事になる。

 だが、もう一つの可能性が浮かんで消えない。夏美がここを迷路みたいだと言った時、『ゲームっぽい』と思った。今、目の前にあるドアは五角形の紋章のようなものをはめ込めば開くようになっている。どんな仕掛けになっているのかは不明だ。

 ドアを開けると通路が『エ』の形になってる場所に出た。部屋の出口今度はチェスの形をしたプラグを差し込むと開いた。この施設に勤める誰かがこの区画を見ていて、それが具現化しているのだろうが、実際にこんな仕掛けがあるとは思えない。

 この世界が現実でなければ全て説明はつく。自分も夏美も、田中やギアや吉岡梨花もゲームのギャラで、隠された謎や鍵を探してエンディングへ向かっているのではないか。最後に現れる凶悪で滅茶苦茶強いボスキャラを倒せば終わりだ。死ねばゲームオーバーだが、リセットすれはやり直しがきく。

 などという事を考えるなんて、精神的に参ってる証拠だ。目の前の問題を処理してからじっくり考えた方がいい。

 「ききき、木場さん!」

 夏美が叫んだ。ドアを開けるとそこはかなりの広さがある空間だった。古めかしいが、しっかりした造りの建物のロビーみたいだ。正面には壷を抱えた石像があり、二階部分は吹き抜けになっている。そこにゾンビ、ヒドゥン、キメラ、デストロ、リッカー、大きな蜘蛛、その他みた事もない化け物が何十匹と居る。

 デストロソルジャーとヒドゥンDタイプが見当たらない。と言うことはこの施設で放たれた生物兵器ではなく、みんな具現化した連中だ。

 木場は夏美を後ろに下がらせ、PLAGを構えた。本体に付いている安全装置らしきスイッチをSからFに切り替える。PLAGはヴーンと唸り、液晶メーターの数字の横に 『OK』の文字が出た。

 木場は引き金を引いた。なんの反動もない。ダメだ、こりゃやっぱり玩具だ、と思ったら狙ったヒドゥンの上半身がスパンと音を立てて爆発した。

 メーターの数字は『98』から『97』に変わっている。この数字は残弾数だ。木場はやばそうなヤツから狙いをつけ、片っ端から撃った。

 PLAGの発射するパルスーレーザーは直接目には見えないが、少し遅れて空気がプラズマ化した青い軌跡が出現する。命中した部分が爆発する理由は、瞬時に体内の水分が沸騰するからだろう。

 連続して撃つと、血飛沫にレーザーが遮られて威力が弱まる。雨が降っていたり霧が出ていたりしたら威力は半減するだろうし、ジャングルでは木の枝や葉っぱに当たってこれまた効果が落ちるはずだ。弱点の多い武器だが、今は絶大な効果を発揮している。

 飛び掛かってきたヒドゥンも、タックルしてきたデストロも二発で倒せた。時間にして一分ぐらいでこの場に居た連中は肉塊となった。辺り一面体液の湯気が満ち、汚物のような匂いが充満して吐き気がする。

 木場は生き残りが居ないかどうか調べた。死んだふりしているゾンビ二体にとどめを剌す。これでPLAGのメーターは『5』になった。狙いを外さなければタイフーンでもどうにかなるだろう。

 こんな高性能なレーザーライフルが実戦に投入されたら陸戦の在り方も変わるし、もっと出力を強めたら、と考えて木場はハッとした。これも妄想の産物ではないのか? コバヤシという研究者が夢見ていて、クートア博士が誘導して引き出したのでは…?

 考えればキリがない。木場はこのロビーのような空間にある三つのドアを調べた。そのうち二つドアの向こうには土壁だった。残る一つ、ここに入ってすぐ右にあるドアはギイィィと音を立てて開いた。

 闇が広かっていた。その中にベッドが一つあった。傍らにライトスタンドがある。明かりはそれだけだ。床はコンクリートぽいが、壁が確認出来ない。目を凝らしてもベッドの向こう側が見えない。まるで無限に広い場所に入っだようだ。

 「木場さん、あのベッド…」

 木場の後ろから覗いていた夏美がベッドを指差して言った。ベッドに白いネグリジェを着た少女が仰向きに横たわっている。木場と、梨花を背負った夏美は少女に歩み寄った。

 が、ベッドの横に大きな何かがうずくまっでいるのに気付き、二人同時に足を止めた。

 最初、それは土下座をしている長い金髪の裸の女に見えた。でもサイズが大きすぎる。湾曲した背中の長さがベッドの倍はある。肌もぬらぬらしていて両生類っぽい。

 そいつがムクッと顔を上げて上体を起こした。乳房が見え、くびれたウエストが確認出来た。太股のラインも結構いいな、と思った木場は目をむいた。

 口の所に頭があった。そいつの巨大な顔の口が、人の顔になっているのである。

 その顔は、ベッドで横たわって目を閉じた少女と同じだった。少女がマリアなら、この怪物もマリアなわけだ。

 そいつがのっそりと立ち上がった。身長は8メートルぐらいか。木場は強い畏怖を感じた。姿はスタイルのいい怪物だが、もし神が降り立ったならこんな感じがするのだろうと思った。

 木場は身体が震えようとするのを堪えてPLAGを構えた。そいつは木場に歩を進めようとしている。ベッドに横たわるマリアに近付けさせないつもりだ。

 そいつの足を撃った。タイヤがパンクするようなバスンという音がして、膝頭が破裂した。そいつは床に無事な方の膝をついた。なんだ、見掛けより弱いんだなと木場は思った。タイフーンの方が盗かに強敵だった。

 でも、残弾は四発だ。トドメを刺すには急所を撃だなければならない。多分、あの口にあるマリアの顔だ。顔を破壊すれば終わるのだ。

 引き金に掛けた指に力を入れた時、木場は心臓が早鐘のように打っているのを自覚した。俺はなんでこんなにドキドキしているんだ?

 振り返って夏美を見た。彼女も不安そうな顔をしている。

 「覚えているか?」

 と木場。

 「いいえ。…でも、デストロと戦った時みたいな感じはしてます」

 「俺も妙な感じがしている」

 木場は、怪物の膝の傷が急速に洽って行くのを見つめながら言った。白色の具現化物質が傷の中に溢れ、出血を止め、傷を塞ぎ、最後は皮膚のようになる。やがてそいつは立ち上がった。

 撃つのを躊躇っていると、そいつは木場を蹴ろうとした。木場は『おわっ!』と叫んで横に飛んだ。夏美はおぶっていた梨花共々後ろに倒れた。

 これは一度、いや何十回と体験している状況ではないのか? 成り行き的にはPLAGで怪物を撃ち倒してベッドで寝ているマリアが目覚めてジエンドだ。それが間違っているからまた同じ時間を繰り返しているのでは…。

 よく考えろ。この怪物はどうしてマリアを守ろうとしている? 誰の想いから造られたんだ? クートア博士か? マリア本人か? この状態は何を意味しているんだ? 

 マリアは十四歳の時に交通事故で意識を失い、植物人間になった。

 クートア博士が人間の無意識からエネルギーを取り出す実験をした。

 最初に具現化したクートア博士は自分の理想で、本人が始末した。

 もう一人のマリアが現れて本当のマリアをここに連れてきた。

 施設に居る人達の恐怖が具現化してマリアとの接触が困難になる。

 となると、やはりマリアがこの怪物を造ったのだ。本人を連れてきたマリアが変貌してこうなった、と考えるのが合理的だ。

 ではマリアは目覚めたくないのか? どうしてだ? まさか夢が自意識を持って妨害しているとでも言うのか?

 「むう…」

 怪物の攻撃を避けつつ木場は唸った。段々と動きが速くなっていってる。このままでは蹴られて踏み付けられてしまう。どう考えても怪物を倒さなければならない。

 「木場さん!?」

 夏美が叫んだ。木場はベッドのマリアをPLAGで狙ったのだ。怪物を倒すのが間違っているのなら、ベッドで寝ている方が悪夢の番人だ。

 「くっ!」

 木場が引き金を引こうとした時、また妙な感じがした。だが、指が震えて引き金を引いてしまった。

 PLAGからパルスーレーザーが発射され、青い軌跡を描いた。木場はゾッとした。以前にも同じ感覚を味わっている。

 しかしパルスーレーザーはマリアの頭部を外れて枕に当たり、青白い炎を上げた。その時、レーザーで切断されたマリアの髪の毛が宙に舞った。

 木場は切れた髪の毛をジッと見た。クートア博士が言った『ヘアー』という単語が頭の中で蘇る。木場は怪物の接近をかわしつつ、その髪の毛を掴んだ。

 それは手の中でボロボロと崩れた。具現化物質に違いない。

 今度は怪物の口にある顔の横を狙った。少しでもずれると顔に当たってしまう。木場は怪物の攻撃を避け、片膝をついて狙いを定め、引き金を引いた。

 怪物の左の顎が破裂した。口にある顔は無事だ。怪物は苦しそうにもがいている。

 落ちてきた血の中に髪の毛が混じっている。木場は怪物が苦しんでいるうちにそれを拾った。

 崩れない。細くてしなやかな金髪だ。木場は心の中で『そうか!』と叫んだ。

 PLAGで怪物の腹部を三回撃った。怪物の内臓が露出したが、まだ死にそうにない。

 「スパスを!」

 木場が夏美に言った。夏美はあわあわと慌てながらも持っていたスパスを木場に渡した。

 至近距離でありったけの散弾をぶち込んだ。散弾がなくなると、今度はP90を連射した。

 怪物はのたうち回り、仰向けになって動かなくなった。しかし、具現化物質が傷から溢れている。木場はナイフを取り出して怪物の口にあるマリアの首の周囲を切り裂いた。

 マリアの首は肩に繋がっていた。その下には身体がある。やはりマリアは怪物に埋め込まれていたのだ。

 「いよっ!」

 木場はマリアの手を持ち、思いっきり引き上げた。怪物の中から粘液まみれのマリアの上半身が現れ、木場は抱きかかえた。

 マリアが怪物から離れた時、怪物の動きが止まった。木場は全裸のマリアを抱いてその場から離れようとした。

 「え?」

 木場は立ち止まって腕の中のマリアを見た。梨花を背負い直した夏美も木場の方を向いた。

 マリアが目を開けていた。青い、綺麗な瞳だ。唇が微かに動いている。何か言おうとしているようだ。

 空間が明るく輝き出した。今まで真っ黒だったのに、今度は目を開けていられないほど明るく、白くなった。

 倒れている怪物が白い粒になってゆく。電気スタンドもベッドも、マリアの偽物も細かい粒になって崩れ始めた。

 異様な事が起こっているのは分かるが、これからどうなるというのだろうか。まさか、また失敗してやり直しなのか…。

 木場と夏美はマリアを見つめた。マリアは優しげな眼差しで二人を見上げ、口を開いた。



 ギアは田中と一緒に、施設を取り巻いている高圧電流が通じたフェンスをレーザーナイフで切断し、脱出した。彼は施設を見下ろせる草ぼうぼうの斜面に腰を降ろし、息を整えていた。隣では田中が再び脱臼した右肩を左手で押さえて呻いている。

 ギアはタイフーンの触手の攻撃で足を負傷していた。傷は見た目以上に深く、血がぴゅーぴゅーと吹き出していた。十分以内に脱出しないと地下の水素貯蔵庫が爆発する。そうなったら施設が陥没し、巻き込まれてアウトだ。その事が念頭にあるから流れ出る血をそのままにして作業に励んだ。田中はフェンスに人が通れるほどの穴を開け、外に出た時に躓いて尻餅をついた。その際に右手をついて肩を脱臼したのだ。

 「木場さん、爆弾の解除に成功したみたいですね」

 田中が痛がりながらも嬉しそうに言った。

 「そう、みたいだね…」

 ギアは片眉を上げて答えた。腕時計を見る。あれから二十分以上経っていた。

 教えた手順通りにすれば絶対に爆発するはすである。と言う事は、正しい解除方法を行ったわけだがどう考えても不可能だ。もし疑って他のやり方を試みたとしても、組み合わせは何百とあるのだ。木場は一体…。

 「何ですか?」

 と田中が訊いた。ギアは自分がぶつぶつと何か言っていたのに気付いた。

 「…出血が酷くてな、貧血を起こしているようだ」

 「病院へ行きましょう」

 「ふむ…」

 ギアは心配そうに自分を見る田中をどうしようか悩んだ。施設が爆発したら殺して死体を炎の中に放り込んで始末しようと思っていたのだが、もうそれは無理だ。

 「シンジと呼んでいいか?」

 「あ、はい」

 「私の事はある程度キバから聞いていると思うが、実はCIAの工作員だ」

 「はあ」

 「シンジは英語が出来るようだね。そこでだ、君をスカウトしたい」

 「は?」

 「こういう例は結構あるんだ。報酬もいいし、アメリカで暮らせば市民権もすぐに手に入る。老後は優雅な年金暮らしだ」

 「えーっと」

 「しかし、今すぐ返事をしなければこの話は無かった事になる。どうする?」

 ギアは『どっちでもいいんだぜ』と素振りで表現した。まるで悪質なキャッチセールスである。

 「分かりました。宜しくお願いします」

 と田中はあっさりと承諾した。

 「おお、そうか」

 ギアはこんな申し出にイエスと答える人間が居たので驚いた。

 田中は、まさかCIAの職員になれるとは思っていなかった、凄くラッキーだ、警備員の仕事を辞めようとしていた、アメリカつていい国ですね、などとまくし立てた。ギアは田中のお喋りを制して口を開いた。

 「ではシンジ、最初の任務だ。私を和歌山のとある漁港に、迅速に送り届ける事」

 「分かりました! あの、なんてお呼びすれば?」

 「ふむ…。ボス、でいい」

 「ボス! あ、でも僕はその後…?」

 「当然君も潜水艦でアメリカ行きだ。その後の事は私に任せなさい」

 「了解!」

 田中は敬礼した。彼が身の危険を感じて演技をしている可能性もあるが、下級工作員に向いている事も確かだ。使えるなら使ってもいいか、とギアは思った。

 ギアは田中の脱臼を乱暴なやり方で治療した。田中はロバのような悲鳴を上げたが、どうにか骨が元の位置に収まった。その後、ギアは田中を従えて施設から離れた。

 グレースケミカルが敷いたアスファルトの私道の途中で、ギアは休憩を命じた。貧血で気分が悪くなったのだ。

 道の端に座り込むと、ギアは眠くなった。ここで眠ってはいけない、と自分に言い聞かせているうちに眠ったらしい。

 気が付いたら、田中が何か言いながらギアの身体を揺さぶっていた。顔を上げたギアは、田中の指差す方向を見た。

 宿舎の方に巨大な光の柱が出現していた。音は全くしていない。柱の先は肉眼では確認出来ないほどの高さにあった。成層圏を越えているかも知れない。

 「雪…?」

 と田中が日本語で呟いた。白い粒がパラパラと降ってきていた。

 ギアは手のひらでその粒を受けた。何かの灰かと思ったが、細かい結晶の塊だと分かった。

 「これ、塩ですよ」

 田中が自分の手で受けた白い粒をなめて言った。ギアは『こいつ、大胆だな』と思った。



続く

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【DD14】

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【DD14】 木場誠二 今村夏美

 しばらく画面が消え、次にクートア博士が映った。目は落ち窪み、幽霊のようになっている。

 『私は間違っていた…。でも、半分は正しかった…。ジェネシス改は己の死を願っていた。これは事実だ。アレは生物兵器として造られた事に絶望していた。だから私に殺させたのだ。しかし、自分を女性として現実化、具現化したのは、アレではなく、私だったのだ。

 夢を見ている時、意識は無い。それを形作るのは、起きている者である。何故その事に気付かなかったのか…。

 私の無意識が理想の私を造った。その私を、私が殺した。あのまま放置しておけば、私に成り代わっていただろう。だからああするしかなかったのだ。

 今日、バイオハザード警報が鳴った。数時間後にはウイルス漏れなど無かった事が判明した。しかし、研究員や職員がゾンビ化している。その原因がこの実験なのは間違いない。

 ゾンビは増えている。Zウイルス抗体が効かない。開発していないヒドゥンが出現している。もう何人も死んだ。ジェネシス改の実験用のデストロが培養ポットの中で目覚め、スーパーデストロとして発育している。何なんだ? どうしてこんな事になる?

 起きている者の願望が現実になるのなら、こんな事にはならないはずだ。だとしたら…。

 人の悪夢が現実となるのか? 理想の私は私の悪夢か? ああ、そうだ。私はマリアに相応しくないと思っていた。だからあんなのが出現したのだ。だったら、だったらあのマリアは何だ? 本当のマリアを連れて、どこかに行ってしまったマリアは…?

 マリアは私を憎んでいるのではないか、と私は恐れていた。だからあのマリアが出てきた。は、ははは…。なんてこった…。

 レーザー研のコバヤシとフォスターという女研究員が来た。彼らはZウイルスが似て非なるものである事を突き止め、その原因がここにあると思ったそうだ。私は彼らに協力しようとした。が、彼らは悶絶し、血を吹いて死んだ。エボラ出血熱の症状に似ている。

 彼らの経歴を調べた。カーサ時代には在籍していない。グレースケミカルになってからボストンの大学の研究室から引き抜かれた。二人ともグレースケミカル出資のボランティア団体に居て、アフリカのエボラ出血熱患者を手当した事がある。

 …なるほど。恐怖が具現化するのか。人間は生存本能による感情が一番強い。生を支えているのは恐怖だ。マリアはそこに同調しているのだ』

 ここで画面が消えた。と思ったらまたついた。そしてストロボのように画面が点滅した。短い場面が何度も繰り返されている。この状態が数十秒続き、やっと両面が安定して、ヘラヘラ笑ったクートア博士が映った。

 『神とは何だ? 神は自分自身と、この宇宙を同時に創造された。宇宙が出来て、時間が流れるようになった。時間と空間は連続体であり、分断する事は出来ない。

 だが、その神に匹敵する存在がある。それが人間だ。人は過去を思い、宇宙の外側を考える。ただ、人には力が無い。せいぜい物質をいじり、自然界には存在しないものを作るぐらいだ。

 その人が、どんな形にせよ想いを具現化する力を得た。その結果、神を造った。人は神を造ったのだ。

 元の状態にする為にはマリアを目覚めさせなければならない。私は扉の向こうに行った。
そこはカラカルやサイレン島や南米ペルーでバイオハザードを体験した研究者達の悪夢の世界だった。そして私はゾンビに殺された。ヒドゥンに首を狩られた。デストロに串刺しにされた。そう、何度も殺された記憶があるのだ。

 でも、今またこうして記録している…。最初は妄想だと思った。たが、数秒の事実が記録に残っていた。私は同じ時間を何度も繰り返していたのだ。

 これが神の業なら記憶も記録も完璧に消し去られるはずだ。しかし、この現象は不完全だ。マリアの力は神に近しいだけだ。ならば解決の糸口も見つけられよう。

 人の想いがマリアの力と措抗しているのだ。だから一度体験した過去は、その人間の特質にもよるが記憶に残る。強い感情や大切な事は思い出せるのだ。

 しかし、私はマリアには近付けない。何度試しても駄目だった。これは私に罪悪感があるからだと分かった。私はマリアを救いたいと願っているのと同時に、罪滅ぼしをしたいと思っているのだ。やがて研究室に十字架が出現するようになった。キリストのように罪を背負って死ねれば幸福だという想いが消えない。

 何度か傑になった。木の杭で貫かれる。このまま永遠に同じ時間を繰り返し、私は傑になって死ぬ運命なのだろうか?

 同じ時間を繰り返す。…いつからいつまでだ?

 マリアの実験を開始したのが四日前だ。この四日間で可能な限り記憶を保ち、行動すればどうにかなるのではないか?

 実験開始直後に記憶を取り戻した。だが、実験は中止出来なかった。私を『お父さん』と呼ぶマリアをどうして消す事が出来ようか。

 動ける範囲内で施設の様子を観察する事にした。この四日間で研究員も作業員も、全員死亡する。最後に生き残った私は傑になって死に、四日前に戻る。私か中心となって時間が繰り返しているのか? 無限の悪夢を創り出しているのは私なのか?

 私の贖罪は地獄に堕ちる事か。…ならば、四日前に戻った時に自殺すればどうか?

 と何度も考え、実行している事を思い出した。どうすればいい? どうすればいいのだ?

 何度目か何百回目かの今日、地下二階の食堂でまだ生き残っている人間を発見した。夕ナカという日本人警備員だ。こんな事は初めてだ。彼は調理室に逃げ込み、難を逃れたと言う。他にも生存時間が延びているらしい者が何人か出てきた。

 私はタナカと脱出を試みた。日本の警察でもいいから来てくれたら状況が変わるのではないかと考えたのだ。だが、タナカはゲートの鍵が使えなくなっていると言う。地下八階の管制室へはタイフーンが居て行けない。ここのコンピューターでアクセスしたら制御装置自体が故障している事が分かった。

 これは、多分私の仕業だろう。傑になって死ぬのが、私の唯一の救いだと思っているからこの場所から出られないようになっているのだ。

 タナカには時間を繰り返している感覚はないらしい。ただ、誰かか助けに来てくれると思っていたようだ。その想いが彼を延命させ、私と出会わせたのだろうか。

 地上施設の遊戯室に居た元軍関係の作業員もゾンビになる前に本国に連絡したようだ。彼は『きっとこの通信はCIAに盗聴されている』と信じていた。

 繰り返す時間の中で、何度も何度も想えばそれが現実化するのではないか? 私が『記憶が残るように』と思ったせいでこうして行動出来るようになっている。とすれば…。

 私はタナカの理想の人物像を訊いた。総合格闘技経験者で腕っ節が強く、銃器の取り扱いに長けていて、沈着冷静で、どんな危機的状況でも乗り切る世界を股に掛けるジャーナリストだという。

 私は施設内の状況を調べて驚いた。セイジ・キバというジャーナリストが連行され、監禁されているのだ。彼はカーサの悪行を暴き、世界的に名を知られるようになった、とファイルにあった。が、私は知らない。カーサはFBIに摘発されて壊滅したのだ。

 これはどう考えればいいのか。…タナカが想い描いたヒーローが現実化した。そしてキバを存在させる為に彼に付随する全ての過去が書き変わった…。

 だがキバは第四保安室を出て、宿舎に入っだところでデストロソルジャーに不意うちを喰らい、殺されている。時間を繰り返す度に微妙に変化しているが、キバが殺される展開は変わらない。

 他の者達も僅かではあるが延命しており、その行動がお互いに波及、影響しているようだ。だからキバが遭遇するゾンビの数が違ったり、地上でうろつくヒドゥンに遭ったり遭わなかったりする。

 ガレージの前でヒドゥンと遭遇したキバが負傷した。キバの行動を追跡していた私は彼の傷が具現化物質で修復されるのを見た。この現象は他の人間には現れない。キバがタナカの想念の産物だからか。それとも私がキバに死んで欲しくないと願っているからだろうか。

 即死か、もしくはそれに近い状態では修復は起きない。私にも計り知れない確固たる法則があるようだ。

 私はキバに接触を試みた。なるほど、彼はタナカの理想像だ。力強く、逞しく、理知的だ。キバと話をしても、彼がタナカの想いから造られた存在だとは思いにくかった。彼には彼の過去があり、それが現実となっているようだ。

 他にこのような現象は起こっていない。この施設に勤務する多くの者は過去にバイオハザードを経験しており、それがトラウマとなっている。彼らは私の実験開始と共に体内にZウイルスを発生させ、ゾンビ化する。その他の者も、特に研究者は最も嫌だと思う状況を創り出してしまう。希望はタナカの想念ただ一つだ。

 キバ一人ではこの状況は変わらない。彼にはパートナーが必要だ。彼もこの世界で存在を許された人間だ。タナカと同じ事が起こっても不思議はない。

 彼に相応しいパートナーは彼の理想像のはずだ。私は彼からその事を聞き出そうとした。

 だが、キバには理想の自分などなかった。理想の存在が理想の自分を思わないのは考えれば当然だ。ならば、守らなければならない人間を想わせればどうだろう。ここに来る時に誰かを同行していれば、デストロソルジャーと出会うタイミングがずれるかも知れない。それだけでも前進だ。

 キバは自分の仕事には誰も同行させない、と言う。では、最も同行して欲しくないタイプは、との質問にキバは』

 画面が止まった。木場は喉がカラカラに乾いていたのに気付き、唾を飲み込んだ。

 クートア博士とは一度も会った事も話をした事もない。しかし、博士の言ってる事を鑑みれば辻棲は合う。ならば自分は田中の妄想から生まれたという事になる。そんな馬鹿な事があるのか?

 木場は物心がついた頃からの記憶を辿った。幼稚園、小学校、中学、高校、大学、それぞれの時代のエピソードや友人達をはっきり覚えているし、今でも付き合いのある連中も多い。父親も母親もまだ存命で広島に住んでいる。この確かな過去が造り物だとはとても思えない。

 「あの、木場さんの事を何か言ってたみたいですけど?」

 夏美がただならぬ表情を浮かべている木場の顔を覗いて言った。

 木場が夏美の顔を両手で挟んだ。夏美はびっくりして手を振り解こうとした。

 「ど、どうしたんですか?」

 「君は人間か?」

 「当たり前じゃないですか!」

 「昔の事を覚えているか?」

 「昔?」

 「子供の頃とか、親とか」

 「何を言ってるんです?」

 「覚えているか、と訊いている」

 「もう!」

 夏美が木場の手を払った。そして幼稚園でお遊戯をしていた時の事から、思い付く限りの出来事をプンプン怒りながら喋りまくった。

 子犬の話が出てきた。名はジョン。家の事情で飼えなかった。お金持ちになって、広い庭のある家に暮らして、いつか迎えに行こうと思っていた。

 「分かった、もういい」

 木場が遮るように言った。

 「何がもういいんですか?」

 夏美はまだ怒っている。

 「…君が会った吉岡梨花という自衛隊員をどう思う?」

 「またいきなり質問する!」

 「すまん」

 「ふう。…カッコいいですよ。背が高くてスタイルが良くて、なんてったってスパイですもん。あんな風になれたらって思ってました」

 「そうか…」

 と木場は呟き、P90を夏美に渡した。

 「あ、あの」

 「今から取り扱い方を説明する」

 「そうじゃなくて、クートアさんは何て言ってたんですか?」

 「…うーむ」

 木場はP90の発射手順を教えつつ、事情を説明した。

 人間の精神からエネルギーを取り出す実験をしていた。娘のマリアを使って実験したところ、他人のトラウマや恐怖に感応して様々なものが具現化した。マリアはクートア博士の想うマリアによって扉の向こうに連れて行かれた。彼女を目覚めさせればこの異常な事態も終息するだろう、と説明した。

 自分が田中の妄想から具現化したらしい事は言わなかった。当然夏美が守るべき者として具現化し、ヒドゥンDタイプのジョンは夏美の子犬への想いが創り出し、吉岡梨花も憧れの対象として出現した事も言わない。言っても信じないだろうし、自分も何か合理的な説明がつくと思っている。いや、絶対つけてやると木場は思っていた。

 「まるでSFみたいですねえ」

 P90を構えた夏美が言った。そのいい方がのんびりしていたので木場は少しホッとした。

 呑気なヤツだなと木場は一瞬思ったが、実はそう装っているだけで、無理して頑張っているんじゃないか。などと思うと何故か照れる。木場は頭を振り、いかんいかんと心の中で呟き、装備の確認を済ませ、扉を開けた。

 その時、またモニターのクートア博士が何か早口で言った。そしてモニターに記録終了の表示が出た。ほとんど聞き取れなかったが『私と出会っていなければ』という言葉と 『ヘアー』という単語を聞いたように思った。



 古びた洋館のような広いエントランスが目の前に広かっている。夏美はもう何が起きてもびっくりしないぞ、と思っていたがこれには驚いた。

 木場は、何とかという実験で悪夢が現実になったと言った。よく分からないけど、錯乱していたぐらいだから本当なのだろう。地下の空間がすっぽり別のものに置き換わっているのを見れば信じる他はない。

 でも、その事と未来の記憶がある事はどう関係しているのか、と木場に訊いたら『精神に何らかの影響を及ぼすらしい』と彼は答えた。なんだか曖昧な言い方だし、嘘を吐かれているような気がするけど問い詰めている場合ではなかった。

 扉を開けたらそこに部屋があって、眠ったマリアが居るものだと思っていた。しかし、ここはかなりの広さがあるようだ。

 正面に幅の広い階段がある。その傍らに昔の電話台のようなものがあり、タイプライターが置いてある。が、それは機械部分が曲がったり融合していたりしていて、使えるものではなかった。

 最初に左手の扉を開けた。食堂だ。見上げると周り廊下があり、そこから落ちたらしい石像が床で砕けていた。何かあるかと調べたけど何も見つからない。

 長い食卓の上に並べられたお皿やナイフやフォークは近寄って見るといびつで、形を真似ただけだと分かる。人間やゾンビやヒドゥンは具現化出来ても物品はいい加減なのはどうしてだろう。その事を木場に訊くと『うー』と唸ってから答えた。

 「認識出来ればいいからじゃないか」

 「はー…」

 「えーっと、マリアの場合、クートア博士の想いが具現化したわけだが、生き物は生き物として動いて反応する必要がある。凄く複雑なシステムだから、そうする為には細胞から造られなければならないわけで、あのアライグマのようになってる場合もあれば」

 「真面目なんですねえ」

 「は?」

 「木場さんて、いつも一所懸命ですよ。ホントに」

 夏美はクスッと笑った。木場はムッとしてそっぽを向き、柱時計の横のドアを開けた。夏美は、こういう反応は嫌いじゃないな、と思った。

 ドアの向こうは赤茶色の土壁だった。ギュッと押し固められたようにカチコチである。木場が足で蹴ったがビクともしない。

 二人は食堂を出てエントランスに戻った。反対側に二つ扉があったがその向こうも土壁だった。

 階段を昇り。左手にあるドアを開ける。食堂を見下ろせる周り廊下を進み、右方向にあるドアをくぐった。

 ゾンビが数体、床に倒れている。銃で撃たれたようだ。木場はゾンビを調べて、アサルトライフルで倒されたようだと言った。

 廊下はすぐ右に折れると、小さな周り廊下のような所に出る。下にも廊下が伸びているようだし、周り廊下の続きにも二つドアがある。

 「何だか、迷路みたいですね」

 と夏美は来た道筋を覚えようとしながら言った。

 「…っぽいな」

 「は?」

 「いや、何でもない」

 木場は険しい顔をして、首を振って言った。何て言ったのかを訊こうとしたら、木場は例の如くサッサと近くのドアを開けた。

 そこは壁も床もコンクリートのような感じの広い部屋だった。研究用の機材らしき物品が壁際にずらっと並べられている。

 夏美は、部屋の奥に作業服を着た女が立っていてこっちを見ているのに気付いた。作業着には血が付着している。片方の肩を下げ首を傾げ、両手に何かを持っている。夏美と木場は同時に銃器を構えたが、夏美が『あっ!』と叫んだ。

 「梨花さん!」

 夏美はP90を降ろして虚ろな目をしている梨花に駆け寄った。木場はいつでも発砲出来るようにスパスの引き金に指を掛けたままだ。

 「大丈夫ですか?」

 と夏美。梨花は黙ったまま、手にしていた物を床に落とした。それは何か小物が入った布の袋とM4A1アサルトライフルだった。

 「気を付けろ」

 木場が梨花を睨んで夏美に警告した。梨花は身体を小刻みに振るわせ、口の端からヨダレを垂らしている。顔色も悪いがゾンビ化はしていないようだが、まともな精神状態ではない。

 「こ、これ…」

 夏美は梨花が落とした袋を指差して呟いた。屈んで袋を調べる。中には直径十五センチぐらいの五角形の焼き物のようなものと、チェスの駒の形をしたプラグらしきものが各々数個ずつ入っていた。

 「あ、集めた。これで、行けるから…」

 梨花はそう言うと『へへへ』と笑って崩れるように倒れた。木場が梨花の身体を抱え、横たえる。梨花は安心したように目を閉じ、意識を失った。

 「き、木場さん! 梨花さん、どうしちゃったんですか?」

 夏美がおろおろと訊いた。木場は梨花の目の辺りにあるピンク色の筋を筋を触っている。その部分だけゴムみたいな感じがする。夏美はまた、木場にどうなっているのかと訊いた。すると木場は梨花を抱き起こしておぶった。

 「命には別状ない」

 「はあ。でもあの」

 「何だ?」

 「あ、あたしが背負います」

 「無理だ」

 「ううっ!」

 夏美は、木場におぶられた梨花に抱き付いた。木場は驚いたが、夏美のするがままにさせた。

 「よいしょっ!」

 と夏美はかけ声を上げて梨花をおぶった。重いし、梨花の足先が床に着いているけどどうにかなりそうだった。

 「木場さんは、鉄砲係なんですから。人には役割ってものがあるんですよお」

 と夏美が言うと木場は『はー…』と感心したように呟いた。

 「馬鹿にしてるんですか?」

 「いやいや、そんな事はない」

 「目元、笑ってますよ」

 「お?」

 木場が自分の顔を触った。夏美は木場を置いて先に行ってやろうとしたが、歩くと梨花の体重がずっしりとのしかかる。やっぱり替わってもうおうかな、と思ったけど木場はもう部屋の奥のドアを開けていた。



続く

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【DD13】

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【DD13】 今村夏美 木場誠二

 ジョンは死んだ。夏美はジョンの傍らで呆然と座り込んでいた。

 何度も同じ事をして、何度も違う事をしたように思える。どうしてだろう? 記憶が混乱しているのだろうか。

 混乱するという事は、体験したという事だ。でもそんな事があるはずがない。

 夏美は立ち上がり、デストロが出てきた部屋の中を覗いた。割れた大きなガラスの筒のようなものがある。筒の周囲は薄緑色の液体の水たまりがあった。デストロはこの中に居たようだ。

 机の上にプリントアウトされた書類の束があった。英語で書かれているので内容は分からないが『Destro』の文字は読めた。

 知ってるはずのない事を知っていた…。夏美は今までの事を思い出そうとした。

 「うう…」

 頭の中で蜂の大群が舞っているようなぐわーんという音がして頭痛に襲われた。ついさっきの体験を思い返そうとしてるだけなのに、それがとても難しい。

 しかも、そうするといろんな記憶が消えて行くような気がする。制御バッジってなんだっけ?

 夏美はぼんやりと部屋の中を歩いた。やっぱり忘れている。何を忘れているのかまで忘れている。

 部屋の隅のテーブルの上に地下七階のカードキーがあった。夏美はそれを手に取り、そうだマリア・クートアという少女がそこに居るんだ、と思い出した。

 そこに行けば一番大切な事が分かるかも知れない。そんな気がして夏美は部屋を出た。

 ジョンをここに置いて行くのは忍びなかった。夏美は必ず戻って来よう、そしてちゃんとお墓を作ってあげようと思い、手を合わせた。

 夏美はエレベータールームに入り、階層表示ボタンを見た。B8Fでエレベーターが停まっている。誰かが地下八階で降りたのだ。

 木場かも知れない。梨花かも知れない。他の誰でもいいから生きている人に会いたい気持ちが募り、B8Fのボタンを押した。



 こういう展開は映画のクライマックスシーンなんかでよくあるな、と木場はエレベーターを降りた時に思った。でもまさか現実に自分がやるなんて思いもしなかった。

 脂汗と冷や汗が頬を伝う。なんて馬鹿な事をしているんだと何度も思うが足を止めるつもりはない。

 通路を進むと、破壊されたドアがあった。その向こう側がタイフーンが居た場所なのだろう。地下発電施設と液体水素貯蔵庫はその手前、右側のドアの向こうだ。

 ドアを開けると真っ直ぐな通路が伸びていた。突き当たりにまたドアがあるが、その手前に黒い人影があった。木場はダッシュして、『どりゃあ!』と叫び、その人影めがけて飛び蹴りを放った。

 それは昆虫のような身体をしたキメラだった。木場は飛び蹴りで倒れたキメラに対してマウントポジションを取り、つまり馬乗りになってスパスを構え、頭部を破壊した。

 木場はキメラの死骸を踏んで立ち、ドアを開けた。冷蔵庫のような燃料電池発電装置が並んでいる。余熱をボイラー設備に送るパイプが破損していて蒸気が吹き出ている箇所があった。

 燃料貯蔵庫のドアは開いていた。木場は転がり込むようにドアをくぐった。

 広い貯蔵庫の中は液体水素を入れたカートリッジらしきものが山積みされていた。木場はなんてずさんな管理の仕方だと呆れた。おまけに『火気厳禁・ナパーム油脂』と書かれた木箱も大量にある。これが一斉に爆発すればこの施設の床が全部落下して壊滅、炎上し、残るのは灰だけだ。

 時限爆弾はすぐに発見出来た。ステンレス製の円筒形で、結構大きい。本体と一体になった金具があり、壁に打ち込み式のボルトを使って厳重に留められている。外して持って行くのは不可能だ。

 木場はドライバーを取り出し、本体カバーに付いている六本のネジを外しにかかった。手早くやってるつもりでも、もの凄くもどかしく思える。

 やっとの事でネジを外した。カバーをそーっと取り外すと、プラスチック爆薬と液晶のデジタルメーターが目に入っだ。メーターは『00:05:14』となっている。

 木場は愕然とした。ギアは残り十分だと言った。ここに来るまで五分もかかったのか? 計算では三分で到着するはずだったのに。

 などと憤っている場合ではない。ごちゃっとしたコード類の中から緑と青と赤のコードを確認する。他にも白や黄色や黒色のコードがあった。

 緑、青の順番でコードを抜き、連結させる。最後は赤を切ればいい。

 木場は緑のコードを抜いた。特に変化はない。青も同じだ。そしてコードの端の銅線部分を繋いだ。後は赤のコードを切るだけだ。木場はナイフを取り出し、赤色のコードを摘んだ。

 悪寒がして手が止まった。口の中がカラカラに乾いている。この期に及んでギアの言葉が嘘に思える。でも他に何かあるのか? 言われた通りにしなければ時間切れで、どこかに居る夏美と共にお陀仏になるだけだ。

 「くそっ…」

 と木場は呟き、覚悟を決めたその時、何者かが貯蔵庫に入ってきた。

 ゾンビかヒドゥンかキメラかリッカーか、それともデストロソルジャーかと身構えた木場は驚いた。作業着姿の夏美がベレッタ製らしき拳銃を構えてこっちを見ているのだ。

 「木場さん?!」

 と夏美が銃を降ろして言った。

 「今村君?」

 木場はホッとして言ったが、今はそれどころではない。

 「木場さーん!」

 夏美が拳銃を落として、腕を広げて走ってきた。抱き付くつもりか? 木場は『やばっ』と思い、走り寄った夏美の顔を足で蹴った。

 「どわっ!?」

 夏美はスッ転んで叫んだ。

 「すまん! 事情は後で説明する!」

 木場はそう言い、作業を続けようとした。

 「あーっ! ダメー! 違うわ、それ!」

 夏美が起き上がりながら言った。

 「は?」

 「えーっと、色が違うような気がするの…」

 「ど、どうして知ってる?」

 木場は驚いた。何で彼女は時限爆弾を解除している事を知っているのか?

 「黄色だと思う」

 「だから、何で?」

 「分からないけど、覚えているのよ」

 「覚えている?」

 「デストロの事も覚えていたし、爆弾の事も。…でも、忘れてしまうの! だから早く!」

 夏美は必死に、訴えるように言った。木場は五秒で結論を出そうと思った。夏美は何と言った? 黄色だと? デストロを覚えていた?

 「ううう…。だあっ!」

 木場はナイフで黄色のコードを切断した。

 何も起こらない。

 メーターが残り四分七秒で止まっている。

 「ぬあああっ! あのクソ野郎!」

 木場はギアを罵り、残りの時限爆弾の解除を急いだ。夏美にはナイフを持たせ、自分はネジを外し、コードを抜いて繋ぐ。夏美からナイフを受け取って黄色いコードを切断する。

 一分で一個解除すればいいのだが、焦るわ手は震えるわ夏美がナイフを取り落として木場の足の甲に刺さるわで、どれだけ時間がかかっているのか全然分からなくなった。

 「ぬうううう!」

 最後の一個に取り掛かり、メーターを見た木場が唸った。残り十五秒だ。落ち着けば余裕で処理出来るはずだが、腕に力が入らずコードを抜くにも『だあっ! うおっ!』と気合いを入れなければならなかった。

 そして、とうとう全ての時限爆弾の解除に成功した。木場はぐったりして、床の上で大の字になった。夏美はペタンと座り込んでいる。

 「助かった…」

 木場が呟いた。出来ればこのまま寝ころんでいたかったがそうも行かない。立ち上がって気持ちと身体を落ち着かせる。

 「あの、木場さん…」

 夏美が木場を見上げて言った。頬が痩け、目の下にくまが出来ている。

 「いろいろあったようだな」

 と木場。

 「ジョンが死んだの…」

 「ジョン? 生き残りが居たのか?」

 「違うの、犬だけど人間で、えーっと、生物兵器にされたのよ」

 支離滅裂な事を言ってる、と木場は最初思ったが、ヒドゥン関連のファイルを思い出してハッとした。

 「それ、ヒドゥンDタイプじゃないのか?」

 「よく分からないけど…」

 「犬の顔したヤツだろ? たてがみみたいなのが生えてて」

 「そうそう」

 「何でそいつがジョンなんだ?」

 「友達だったの」

 「は?」

 木場は夏美の前に腰を降ろした。夏美が何か言う度に質問し、理解しようと努めた。信じられない話ばかりだが、自分も説明不能な事を体験しているので黙って聞いた。

 地上の発電施設でヒドゥンDタイプと出会い、その直前に入手した制御バッジを持っていたせいで命令に従うようになったらしい。木場は夏美から制御バッジを受け取り、調べた。電池が切れていて作動していない。

 「どうかしました?」

 と夏美。

 「いや、別に…。で、制御バッジという言葉を聞いたのは今、俺からだよな?」

 「ええ…」

 夏美は不安そうに答えた。木場は、夏美が地下四階の保安室からここまで来たルートを訊ねた。

 夏美が『遊戯室の男』と呼んでいるのがデストロソルジャーだと分かった。彼女はデストロソルジャーの研究室に入った際、制御バッジを見たと考えるのが理論的である。

 デストロは、Zウイルスの正式名称がデストロイド・Zウイルスである事から連想すれば出てこなくもない。これは夏美も読んでいる『恐怖のバイオハザード』にも記述してある。しかし、その他の事柄はどう考えて説明出来ない。

 「じゃあ、未来の記憶があって、それを思い出したって事か…?」

 「そうとしか考えられないし…」

 「分かった。行くぞ」

 「え? でも、地下七階に」

 「そこを調査して、吉岡梨花って自衛隊の人を捜してから脱出する。いいな?」

 「は、はい」

 夏美は頷いて答えた。二人は立ち上がり、燃料貯蔵庫を出た。

 木場はギアに会って半殺しにしてやりたかったが、それは真実を知ってからだ。

 「木場さん?」

 夏美が険しい顔をしている木場の名を呼んだ。木場は考え事をしている自分に気付いて口を開いた。

 「何でもない」

 本当は『真実ってなんだ?』と考えていた。木場は何故か真実に近付く事に畏怖を覚えていたのだ。



 木場の後について地下八階の通路を進んで行くうちに、夏美は木場の締まったお尻を蹴飛ばしたくなった。この人はあたしの顔をガイーンと蹴った。目から火花が出た。事情は分かったけどやっぱり腹が立ってくる。

 強い光がカメラのフラッシュのように連続して瞬いた。それが爆発の瞬間だと理解したのは、見ている場所が微妙にずれていたからだ。木場の隣りだった時もあれば、貯蔵庫に入ったところだった時もある。

 赤いコードをナイフで切断する。光る。切断する。光る。これを数回見た。黄色いコードを切断した場面を見たと思った時に記憶の繰り返しが止まった。だから赤ではない、黄色だとあの時言ったけど、よく考えれば無茶苦茶だ。

 木場が言うように未来の記憶を見たとは思う。でも実証出来ないし、原因も分かっていない。もし、幻覚を見ているだけだったら今頃二人とも灰になっていたはずだ。

 だけど、正しかった。やはり自分には未来の記憶があるのだ。頭が痛くなるので理由は考えないようにしよう、と思った時に木場が立ち止まった。

 そこは発電室から出た場所だった。左に行けばエレベータールーム、正面のドアは梨花と出会った部屋、右側がタイフーンとかいう生物兵器が居た所だ。

 「ちょっと覗いてみる」

 と木場が言った。夏美は『あの』と言いかけたが、木場がさっさと歩いて行くので黙って後に続いた。

 動物園みたいな匂いのする広い部屋は至る所に血痕はあったがゾンビも居なければ死体もない。部屋の奥にシャッタードアがある。ドアは開いていて、通路が伸びているのが分かった。

 通路に入ると、突き当たりがシャッタードアで、すぐ左にカードキー式のドアがあった。カードキー式のドアのロックは掛かってなく、木場はそのドアを開けた。

 中は保安室と似た造りだが、エアシューターはない。その代わりにコンピューターと大型のモニターが設置されている。

 「ここが制御室か…」

 と木場が呟き、コンピューターを調べようとしたが何を思ったのか近くの机を蹴飛ばした。

 「ど、どうしたんですか?」

 と夏美。

 「ギアめ…」

 「動かない。壊されてる」

 木場が指差したコンピューターの本体の横に深い溝があった。溝の縁が溶けている。夏美は『ギアって、歯車の事かな』と思って質問しようとしたら木場はもう部屋の外に出ていた。

 行動力があって決断が早いのが木場の良いところだと思うけど、人の話を聞かないし自分の事は話したがらないし、こういうのを独断専行タイプっていうんだろう、友達はいなさそうだな、と夏美は思った。

 木場は『壊されている』と言ったが、夏美はコンピューターの本体に、白い粒が付着しているのを見つけた。溝の奥、本体の中にもいっぱいある。これのせいでコンピューターが動かなくなっているようだ。

 ドアが開く音がした。続いて木場の『おわっ!』と叫ぶ声もした。夏美はまた何か出たのかと通路に出た。

 「ん…?」

 出て左側、シャッタードアの前で木場が銃を構えている。夏美は木場の肩越しにシャッタードアの向こうを覗いた。

 「わっ!」

 と夏美も叫んだ。ドアの向こうには緑色の水が溜まったプールが二つあり、そこから亀が這い昇ってきていた。

 亀の顔は凶暴なワニガメに似ている。違うのは身体全体の大きさだ。幅は7メートル、厚さは2メートルを優に越えるだろう。

 亀が口をパックリと開けた。四十インチのテレビを一呑みしそうなぐらい大きい。

 「相手をしている場合じゃないな…」

 木場がシャッタードアを引き下げて言った。夏美はうんうんと頷いた。アレも生物兵器なら、携帯している武器ではどうにもならないだろう。

 「行くぞ」

 と木場が言った。夏美はきびすを返してエレベータールームに向かった。木場は『お、おい!』とか言ってるが、無視してそのままズンズン歩いた。そしてエレベーターに乗るまで木場の前を歩けたのでちょっと満足した。



 地下七階のエレベータールームを出ても夏美は黙っていた。木場は『何を怒っているのか?』と思ったが理由は訊かない事にした。女の心理を理解するのは相対性理論を理解するより遥かに難しい。

 通路はL字型になっていた。角にロックされていないカードキー式のドアがある。多分ここが心理エネルギー学研究室だろう、と思い木場がドアに手を掛け、開けた。

 「なんだ、こりゃ…?」

 木場が呟いた。夏美も呆然と室内を見渡している。

 室内はまるで雑巾を絞ったようにねじれていた。床はまだマシだが、壁も天井も大きくうねっている。それに他の部屋とは使われている材質で全然違う。木のようにも見えるが、合成樹脂のようでもある。

 「あ、あれ!」

 夏美が指をさして言った。部屋の中央に円形の台座のようなものがあり、木場は最初太い柱だと思った。が、その上には十字架があって、白衣姿の初老の男が傑になっていた。男の身体には木の棒が何本も刺さっていて、それで十字架に固定されているようだ。

 木場も夏美も言葉を失い、しばらくの間この奇怪なオブジェを見上げていた。男は生きているのか死んでいるのか分からない。ピクリとも動かない。息をしている様子もないので多分死んでいるのだろう。

 台座の向こう側には扉があった。木製の、お屋敷の玄関扉のような造りだ。台座と扉の間にはベッドや機械やコンピューター類があった。

 扉の近くの壁に豪華な縁の鏡が掛かっている。その手前の床に血が滴っていた。安っぽいお化け屋敷みたいだ。

 「お?」

 木場はうねった床の窪みに研究員らしき男女が倒れているのを発見した。近くにはレーザー兵器研究室のモニターで見たPLAGが落ちていた。

 男女ともに恐怖に歪んだ顔で死んでいた。目と鼻と口と耳から血と粘液を流している。木場は『どこかで見た死に様だな』と思った。

 男の研究員のネームプレートは『ショージ・コバヤシ』となっている。レーザー兵器研究室の日誌ファイルの記入者だろう。

 木場はPLAGを拾った。レーザーナイフと同じバッテリーに繋がっている。スパスぐらいの大きさで、重さも似たようなものだ。本体の液晶の目盛は『98』となっている。

 PLAGは本体もバッテリーも肩から下げられるようベルトが付いている。木場は左肩に下げてみた。腰溜めで撃とうと思えば出来ない事もなさそうだ。もっとも、パルスレーザーが出ればだが。

 ベッドには腹を割かれた動物が仰向けになって紐で縛られていた。それはアライグマだった。柔らかそうな乳白色の内蔵とおぼしき器官がいっぱいある。心臓は菱形で、肺は空気袋のように薄く、消化器官の代わりに節のある管が盛り上かっている。ギアが言ったように外側はアライグマだが中身は別物だ。こんな生物は存在しない。

 次にコンピューターとモニターを調べた。表面が溶けたようになっていて、とても使えそうにない。ダメもとで起動スイッチを入れたらコンピューターがヴーンと唸り、モニターが点灯した。

 モニターの表面も歪み、所々に点々と白い粒のようなものが付いている。まるで飴細工だ。でも画像は妙に鮮明だった。

 男が映し出された。黒い背広の上に白衣を羽織っている。この男もどこかで見たと思ったら、十字架に傑になっている男だ。

 画面の右下に日時と、記録者を示す欄があった。そこには今年の夏の日付と『アイン・クートア』という名があった。

 「クートアって、もしかしたら…?」

 夏美が木場の後ろからモニターを覗いて言った。木場はマウスで画面左下に表示されている『再生』の文字をクリックした。動画の再生が始まった。

 クートア博士は咳払いを一つして、モニターの上に設置したカメラの調整をした。そして溜息を吐き、口を開いた。

 『後世の為に、記録を開始する。えー、こんなものでいいかな…』

 と言い、一旦動きが止まった。一度自分の姿がどんな風に映っているか確認したようだ。

 背景は整然とした研究室だ。ここではなさそうに思えたが、機材の中に同じ物が幾つかある。

 『ふむ…。私も年を取ったものだな。昔はカーサの若き万能天才科学者と呼ばれ有頂天になったものだが、老いるとは夢にも思わなかった。おっと、愚痴を言ってる場合ではない。誰にだ? この記録を見ている君にだ。わははは』

 クートア博士がゲラゲラ笑った。木場は呆気にとられた。彼はダスティン・ホフマンのような渋い男前だが、見掛けに寄らずユーモア好きらしい。

 『さて、私のアイデアが認められ、心理エネルギー学の実験を行う事となった。その模様を余さず記録したいと思う。それにしても、カーサの連中には頭が下がるね。カラカルであんな事件を起こし、サイレンや南米ペルー基地も世間にバレてもすぐこれだ。しぶといと言うかゴキブリ並と言うか、お陰で日本で研究出来る事になって嬉しいのだが、外出が制限されているのは困ったものだ。レーザー研のコバヤシ氏に聞くところによると、大阪にはたこ焼きなる珍妙美味なる食べ物があり、関西地方の全世帯ではたこ焼き器があって毎日食べているらしい。私も一度食したいと思っているが、研究の成果が出ない事には休暇の申請さえ受け付けてもらえない。ま、それはさておきプレゼン用の心理エネルギー学の概要をまとめてみよう。ここからは音声と文字やデータやグラフを簡単に編集して分かりやすくしてみる』

 一旦画像が止まり『心理エネルギー学入門』という文字が出てきた。このおっさん結構おふざけが好きだな、と木場は思った。

 「あの、あたし英語分からないんですけど、たこ焼きと何か関係があるんですか?」

 と夏美が言った。

 「後で説明する」

 と木場。モニターには人間の脳の三次元構造図と、意識と無意識を現す円形の図面のようなものが映し出された。

 『心理エネルギー学というのは、人間の無意識の奥に眠るエネルギーを取り出す学問である。人間の無意識は人類共通の無意識と繋がっており、そこには莫大なエネルギーがたゆたっている。この報告を御覧の皆様方は信じられないとお思いでしょうが、これは事実なのです』

 モニターに触手がいっぱい生えている芋虫のような生き物が映された。『デストロ改良実験時における副産物的現象』と題名が表示される。

 『ご存じのように、カーサ生物兵器開発部門が作り上げたZウイルスによる人型汎用生物兵器デストロは、当初は人語を解するが人の命令を聞かず、暴走する危険な存在であった。そこで我々の研究班は人の神経細胞を増殖させ、自律活動を行う新生物『ジェネシス』を創造した。これをデストロの脳に寄生させて本能を抑制し、人間に忠実な生物兵器の実現をみた。我々はこの成果を喜び、ボーナスをもらってハワイでのんびりしていたわけだが、カラカルシティの特殊警察隊の一員であるジェシー・ビュームなる女性に撃退されたとの報告を受け、ずっこけた。一体いくら労力と金が掛かっていると思うのか? それに、どうして女の警官を殺す為に使ったのか? どんな風に使ったのか? 上層部のやる事はわけが分からない。おまけにカーサは潰れ、グレースケミカルの役員と名乗る男がやって来るまで私は一年間もハワイでぶらぶら過ごすはめになった。それはさておきこの一件により、デストロを小型化させて本能を抑え、なおかつ繁殖能力を持つデストロソルジャーと、ヒドゥンに犬の遺伝子を組み合わせたヒドゥンDタイプの開発が始まった。この両者は人型生物兵器の最終目的である『戦場で兵士の代わりに使う』という利用方法に最も適しており、コストも格段に安い。私もこの方面の研究をするものだと思っていた。が、上からジェネシスの改良を行えと言われた。女一人にあしらわれるものをどうして研究しなければならないのか? 上層部は新型生物兵器、タイフーンとポセイドンの制御に使うと言う。熊と亀をジェネシスで制御すると聞いた私は頭にきて』

 ここで画面が停正した。再び動き出した時にはクートア博士がコーヒーカップを手に持っていた。

 『どうも、その、愚痴を言ってしまうようだ。ははは。ま、簡単に言うとだな、上はジェネシスのタイフーンとポセイドンへの利用を諦めたわけだ。しかし、ジェネシス自体の可能性はまだまだあるとこだわっていたので、私はそっちの担当となった。デストロソルジャーの更なる能力開発と、人間への利用法を追求しろと言われ、私は研究を始めた。そしてこの研究を通じて、人からエネルギーを取り出せる事が分かった』

 クートア博士はコーヒーを一口啜った。画面には『ジェネシス改』と表記された生物が映された。ジェネシスと似ているが、平べったくて皺が多い。

 『このジェネシス改は人の大脳新皮質と同じ働きをする。訓練次第で人間並の思考力を得る性能を持つ。これでデストロはでくの坊ではなく、会社を経営し、アメリカンージョークを連発し、サックスを吹き、歌って踊れるようになる。だがしかし、それは人であって生物兵器ではない。つまりは倫理観と人間の有能さとは無関係ではないという事だ。ジェネシス改の性能を落とせば命令に忠実になるが予定外の事態に対処する能力が落ちる。大量殺人犯を観察すれば理解出来ると思うが、彼らに共通しているのは狂っている事だ。戦場に送れば味方を殺しかねない。幸いにジェネシス改は能力調整が出来るので、うまくバランスが取れるまで何度も実験を繰り返さないといけないだろう』

 画面にコードの付いたヘルメットと医療機器のような機械が映った。この部屋にある装置と似ているが、もっと大型でゴテゴテしている。

 『私はこの実験を効率よく行う為に、ジェネシス改を疑似脳に寄生させ、シナプスの電荷を測ろうとした。ご存じのように、シナプス間で生じる電気レベルは低い。これを増幅して反応とかを調べていた時に奇妙な現象が起こった。発生した電気信号を特殊な装置で真似て送り返したところ、また同じ反応が起こった。それを繰り返したら装置がショートした。漏電でもしたのだろうと、直してまた同じ事をしたらやっぱりショートした。今度は機械に電圧計を取り付けた。驚いた事に、ショートの原因は脳のシナプス間の電気回路を再現した部分で発生していたのだ。コードからも、その他のどこからも電気は流れ込んでいない。私はこの現象を解明しようと躍起になった。ジェネシス改に自意識は無い。つまり眠っている状態だ。夢に刺激を与え、反復させる事により電気的エネルギーが発生する。最初、私はこの突拍子もない考えを自分で笑った。だが、実験を進めるにつれて事実だとしか考えられなくなった。では、一体どれだけのエネルギーが発生するのだろうか? 装置を改良して計測したところ』

 一瞬画面が消え、またついた。木場はてっきりその続きが見られると思っていたが違った。クートア博士はやつれ、げっそりした顔になっている。

 『夢が…。そう夢だ…。ジェネシス改は夢を見ていた。だからエネルギーが発生した。その夢を見れないか、と思ってドリーム・ホログラフィック・ディスプレイを作った。原理は簡単だ。上の連中は難しすぎて理解出来ないと言う。馬鹿な奴等だ。自転車に乗るのは簡単だろ? どうして自転車に乗れるのか説明しろって言われても乗れるんだから乗れるとしか言いようがない。だから実験結果を見せつけてやった。驚いていたよ。もう半年前の話だがね。
 ジェネシス改が見ていた夢は抽象画のような感じだ。時たま疑似脳の感覚器官から得た景色とか、音とか、そんなものが出てくる。ずっとそんな感じだった。でも、一週間前にジェネシス改の夢の中に私が出てきた。ジェネシス改は夢の中で自分自身を造った。妙齢の美女だ。性別もないただの合成生物であるジェネシス改が、自分を女だと思っていた。私や、他の研究員の会話から、私の好みの女性を知り、そうしたのかも知れない。彼女は私に寄り添い、もたれ掛かった。ジェネシス改が何故そんな夢を見るのか、不思議だった。そしてアレが起きた』

 クートア博士は頭を掻き雀って『ううう』て唸った。

 『彼女が私に語り掛けた。温度を上げて、と。私はきっとジェネシス改が寄生している疑似脳の温度が低いのだと思い、その足で設定温度を上げた。ははは…。夢の中でやったのに、現実に温度が上かっていたんだ。私はディスプレイを見ていたはずだった。でも、いつの間にか夢の中に居た。それが始まりだった。アイツと私は夢の中で出会い、過ごすようになった。その期間は四日ほどだった。ある日、アイツは私が書類を書いている後ろに立った。私は振り返った。アイツは微笑んだ。私は装置を確認した。スイッチは入っていない。気が狂ったと思った。アイツはジェネシス改の生命維持装置を指差して言った。止めて下さい、と。私は止めた。アイツは、彼女はありがとう、と言ってわけの分からない粒になって崩れた。は、ははは。私は彼女の身体だったものを片付けて、バーに飲みに言った。顔見知りの研究員と馬鹿話をした。現実だった』

 また画面が止まった。次に画面に現れたクートア博士はマッド・サイエンティストさながらの風貌になっていた。

 『私には娘が居る。マリアという名だ。私がカーサの研究員となった頃に出来た娘だ。十四歳の時に交通事故に遭い、それから三年間意識を失ったままだ。先週、グレースケミカルの特務部隊に頼み、本国の病院からマリアを運んでもらった。マリアは一日に数回眼球運動をする。つまり、夢を見ている可能性があるのだ。ジェネシス改の代わりにマリアを被験者とすれば、上手く行けば、彼女と話せる。いや、復活も可能だ。私は早速実験に取り掛かった。
 ジェネシス改と同じだった。やっぱり彼女は夢を見ていた。上層部への体面もあり、マリアからエネルギーを抽出する実験から始める。
 夢はエネルギーを取り出す為のきっかけだ。そのエネルギーは電気ではなく別の何かで、装置と感応する事で変換される。ジェネシス改と違い、マリアから得られたエネルギーはこの施設のバッテリー全部を充電するに足る量だった。上は人間発電所が出来たって喜んだ。ウイルス兵器開発のようなリスクを負わなくても、莫大な利潤が得られる。二十一世紀後半に訪れるだろうエネルギー争奪の為の世界大戦を回避出来る唯一の方法だ、とも宣った。だが、私には興味はない。マリアが復活したらそれでいい。
 私は駄目な父親だった。妻と離婚後、ろくに面倒もみずに研究に打ち込んでいた。こんな父親でもたまに帰る度にマリアは労いの言葉を掛けてくれた。あの娘はいい娘だ。十四歳の春までは。…
 Zウイルスによる細胞再生能力を与えれば昏睡状態をどうにか出来ると考えた時もあった。私は他の研究者のようにそこまで腐っていないつもりだ。マリアを危険に晒すつもりはない。
 エネルギー抽出の実験は成功した。上はそれを認めた。追加実験と調整の名目で、夢の現実化実験を行う。
 ジェネシス改は自分を女性として現実に構成した。エネルギーと物質の関係はアインシュタインが解明している。E=MC2だ。物質はエネルギーの貯蔵タンクのようなものだと思えばいい。夢から抽出したエネルギーは物質化する。計算すると、ジェネシス改が造った女性は広島型原子爆弾に等しいエネルギーを使っていた事が分かった。こんな大量のエネルギーが夢から出てくるとは考えにくい。だから人の無意識の更に奥に、宇宙を創造するに匹敵するエネルギーがあると判断するしかない。
 マリアの夢をディスプレイに映し出す事に成功した。十四年間で体験したあらゆる事が夢に出てくる。ユタの田舎で暮らしていた時の事が多いようだ。古い屋敷で、マリアは恐がっていた。私はディスプレイを通じて恐がる事はないと告げた』

 ここで画面が止まった。次に出てきた画面にはクートア博士とネグリジエ姿の少女が映っていた。木場は仰天した。夏美は『あっ!』と声を上げた。

 『娘のマリアだ。夢から現実の世界に戻った』

 とクートア博士。

 『お父さん、なにしてるの?』

 マリアがカメラを覗き込んで訊いた。

 『記録をつけているのさ』

 『ヘー』

 『気分はどうだい?』

 『いいわよ』

 クートア博士もマリアも和気あいあいとしている。その様子は楽しげな親子以外の何者でもない。が、木場は二人の間に何か張り詰めたものがあるような気がした。

 カメラが切り替わり、ベッドで眠っているマリアが映った。頭にコード付きのヘルメットを被っている。画面が急に動き、クートア博士が映った。カメラを見て、口の端を歪めて無理して笑っている。と言うことは、撮っているのは現実化したマリアか? ジェネシス改は自分を殺すようクートア博士に願っている。マリアはどう感じているのか?

 今度の画面は、クートア博士が椅子に座り、カメラを見ているだけだった。その姿は若く、男前になっている。整形でもしたかのような顔だ。気取って学術書を読んでいる。

 別のクートア博士が画面に入ってきた。学術書を読んでいるクートア博士がそっちを向いた。新たに来た方のクートア博士がコルトガバメントらしき拳銃を構え、もう一人のクートア博士の頭を撃った。

 「ど、どうなってるんですか?」

 夏美が木場に訊いた。木場は掻い摘んで説明しようとしたが、また画面が切り替わった。

 ここの研究室の壁のアップだ。ゆっくりとうねり、変化している。次にマリアが映った。マリアは、マリアを抱えていた。抱えている方は健康そうで、よく筋肉が発達している。抱えられている方は棒のように痩せていて、関節が固まり身体がこわばっている。そして壁に扉が出現した。

 扉はスッと、瞬間的に壁に現れた。まるでそうなるのが当然のように。マリアを抱えたマリアは扉を開けてその向こうに姿を消した。



続く

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